『手渡されたバトン』(Part 2 of 2 parts)

(パート1からの続き)

            +++

40年間。


46年の歴史を刻むこの店の最大の人気メニューはタンメンだという。ランチタイムの注文の9割方はタンメンというから大変な人気だ。いつも、他のラーメンなどのメニューにも目が行くのだが、どうしてもチャーハンを注文してしまう。次回は意を決してタンメンにチャレンジするか。そして、やはり9割方が常連さんだとも付け加えた。常連で持つ店は、地域密着の店ということ。そして、味が安定していることの証だ。

主人が打ち明けた。「父の代から40年間毎日うちのタンメンを食べにきてくれたタクシーの運転手さんがいらっしゃってね。毎日、毎日です。ここでタンメン食べて、また仕事にでられるんです。(今は土日・祝日休業だが) 以前は5人でやってましてね。両親と僕たちとおばさんがいて、日曜だけ休みだったんです」

ざっと勘定してもその運転手さんは12000食タンメンを食べたことになる。「今でも?」と聞いた。「いえ、その方3年ほどまえに亡くなられて、今はもう・・・」 ということは、その運転手さんは30年ほど先代のタンメンを食べ、10年ほどその息子さんである現在の主人のタンメンを食べてきたことになる。これはすごい。日曜日は、一体、その人は何を食べていたのだろう。妙に気になった。

「たぶん、僕の(タンメン)は、最初のうちけっこう我慢して食べられていたんじゃないでしょうかねえ。(笑) いろいろ味については言われて、でも、とっても助かりましたよ。勉強になったっていうか」 父親は厳しく、最初のうちはスープも触らせてもらえず、ひたすら洗い物ばかりさせられた。だが、料理をまともに教わる前に、父は他界してしまった。だから彼の料理は父親のものを見よう見真似で覚えたものだ。それでも、子供の頃から父のものをずっと食べ続けていたので、その味はある程度、体で、いや、舌で覚えていたと思う、と彼は告白する。

30年間毎日父親のタンメンを食べ続けたひとりの客が、続く10年で二代目の息子にその味を教える。先代の味に徐々に近づいていく二代目の味。まさに、店は客が作るのだ。

13年前、父親の代から彼の代になったときには、けっこうお客さんが離れていってしまった、という。「でも、最近そういう方たちが戻られてくるようになったんです」 

「それは、お父さんの味に近づいたということなんでしょうか」と僕は尋ねた。「さあ、わからないですね。そうだったらいいんですけど」 彼は少しはにかみながら答えた。

歴史のバトンは、見事に次のランナーに手渡されたのだ。

「じゃあ、これからもおいしいチャーハンとタンメンを作ってください」 「ありがとうございま〜す」 再び主人の甲高い声が響いた。

扉を閉めて外にでると、時計の針はいつのまにか11時を回っていた。夜風が冷たかった。だが、美味なチャーハンと餃子以上のおいしい話に、身も心も満腹になった。


+++++

(文字数が多かったため、1日分で入りきらずやむおえず2日にわけました)


コメント