友情。

オレゴン州キャッスルロック、人口1281人。物語は、1985年9月4日付けの地元の新聞が座席に置かれた車内から始まる。そこには、ある弁護士が些細な喧嘩の仲裁に入ったことで、喧嘩をしていた連中にナイフで殺されたと書かれていた。その弁護士は、運転席で呆然としている主人公の親友だった。彼は26年前のことを回想し始めた。

1959年、彼らは12歳。その夏休みのことだった。主人公ゴーディーのほか、クリス、テディー、ヴァーンは仲良し4人組。とある高校生が汽車にはねられ死んだという情報をつかんだ彼らは、32キロ先の現場にその死体を見に行くことにする。一泊二日の大冒険が始まった。

ベストセラー作家スティーヴン・キング原作の映画『スタンド・バイ・ミー』(1986年)の冒頭のシーンだ。DVDを借りてきて再度見た。やはり、いい物語だ。

スティーヴン・キングは、1947年9月生まれ。だから、59年には12歳になっている。まあ、正確には59年の夏休みは11歳だが、細かいことは言わないことにしよう。(笑) 彼の自伝的物語である。映画は、少年の頃から物語を書くのが好きだったゴーディーが回想するスタイルで進んでいく。ただ小説はクリスの回想で話は進む。

冒険の途中でゴーディーが、大食い競争の話を友達に聞かせるところで、彼らから「そのエンディングじゃつまらないよ」という意見がでてくる。ゴーディー(すなわちスティーヴン・キング)はきょとんとするが、ひょっとしたらこのあたりで、ゴーディーは、ストーリーの組み立て方のちょっとしたコツを学んだのかもしれない。

そして、12歳の彼が書くストーリーに両親はまったく気にもとめないが、兄貴だけはちゃんと読んで「おもしろかったぜ」と感想を言ってくれる。その兄は弟思いで、兄が大事にしていたニューヨーク・ヤンキーズの帽子を釣りに行く弟にくれる。ところが両親の関心は優秀な兄にばかりいく。

舞台は本当に小さな街、そこでは、誰もが誰もを知っていて、秘密などない。たぶんこの街に生まれた人のほとんどは、一生をこの街か近くのもう少し大きな街で過ごして終わるのだろう。彼らにとっては、その街をでるということがものすごく大きな意味を持つ。そして、12歳の少年にとっても、この冒険はそんな街を初めて出るというところに意義があるのだ。

この小さな冒険の途中で、4人それぞれが持つ悩みが明かされる。危険を伴う冒険を共有することによって深まっていく4人の友情の絆。最後、その後の3人のことが少し語られ、85年に戻ったところで、作家になったゴーディーは、ワープロに向かってエンディングを打つ。「あの時のような友達を持つことは、二度とできないだろう」

画面がフェードアウトして流れ出てくる曲が、ベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」。元々は恋人である君が横にいてくれれば、どれほど心強いかというラヴソングだが、ここでは、友人たち、親友たちが横にいてくれればどれほど素敵かという普遍的な友情ソングになっている。まさにこの映画のテーマに完璧な一曲だ。

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「スタンド・バイ・ミー」

闇が訪れ、地が漆黒になるとき、月明かりだけが唯一の頼り
そんなときでも、君が傍らにいてくれれば、何も怖くはない

ダーリン、僕の横にいておくれ

万一見上げる星空が落ちてきて、山が海の中に沈んでしまっても
君が傍らにいてくれさえすれば、僕は絶対に泣かない

ダーリン、僕の横にいておくれ

君に何か嫌なことでもあったら、いつでも僕の横においでよ
僕のとなりにおいで

    ***

この物語の後に、この曲が流れてきては、涙を抑えるのに苦労する人も多いだろう。原作者のスティーヴン・キングでさえ、映画を見て泣いたという逸話があるのもうなずける。こんなに物語と曲のテーマが一致する例というのも珍しい。しかも、既存曲でありながら。サウンドトラックがゴールドディスクになるのも納得だ。

昔の歌詞はシンプルだ。昔のメロディーもシンプルだ。そして、昔の生活もシンプルだった。携帯がなくても、電子メールがなくても、厚い友情は、培われた。

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