月。

今夜のスターが登場する前、誰もいないステージ中央にぽつんと立っていたマイク・スタンド。そのマイクの位置がずいぶんと高い。「あれが、リズのマイクだろうか・・・」 もし、そうだとすると、リズはかなり背の高い女性ということになる。前回のジョー・サンプルの時に見ているはずだが、果たして、こんなに大女だっただろうか。今年初のソロ作品『ソルト』を出した、リズ・ライトのリズ・ライトとして初のライヴである。

ジョー・コーハード(ピアノ)、ダグ・ワイス(ベース)、EJストリックランド(ベース)のトリオがまず一曲ウォームアップ曲を演奏した。そして、拍手にうながされてリズが登場。マイクの前に立つリズは、やはり大きかった。しかし、顔が小さいから、モデルみたいだ。一体何等身なんだろう。アルバム未収録曲を歌いだした。彼女のCDジャケットはセピア色で彩られている。そして、そのリズの歌声は単色のセピア色そのものだった。

ジェニュイン(純粋)で、無垢で、素朴で、汚されていなくて、誠実で、シンプルで。こうした単語以外の他に形容の言葉が浮かばない。彼女には七色のカラーはいらない。アンコールを含めてリズは1時間15分にわたってモノトーンの9曲を歌った。カサンドラ・ウィルソン、ダイアン・リーヴスなどと共通する匂いが漂う。彼女は太陽ではなく、月だ。

体が大きいので、歌いながら動かす腕ひとつで、ヴィジュアル的にもリズの世界を作り出す。存在感が生まれる。若干、曲調が単調なために、一本調子になるところはあるが、シンガーとしてはしっかりと地に足がついていることがわかる。スタンダードの一曲「ネイチャー・ボーイ」を歌っていたが、なかなかいい雰囲気だった。

ライヴが終わった後、ちょっとだけ楽屋に行った。リズは大きなりんごを丸ごとかじっていた。「あ、ごめんなさい。こんな姿で」 「りんごが好きなんですね」 安定した歌声はどのように維持しているのか。「2−3日前までずっと咳がでててね。でも、直っちゃったわ。特にこれと言って、何かをするということはないわね」 「一部と二部では曲は変えるの?」 「変えるわ。ちょっとだけ。そのときの気分で」 

ジョニ・ミッチェルの「フィドル・アンド・ドラム」を、やらなかった。なぜ。「ああ、あの曲ね。別に理由はないわ。できるわ。でも、あの曲は、今、アメリカではちょっと歌いにくいわね」 「ではなぜ、録音したの?」 「プロデューサーが録音して欲しいって言ったから(笑)」 アメリカでちょっと歌いにくいというのは、歌詞のニュアンスがちょっと反戦歌的なところがあるからだ。

繊細で几帳面風な人物に見受けられた。淡くライトアップされた人影のないモーションブルーを出て車を走らせていると、横の歩道を大柄な女性が、それほど大柄ではない男性と歩いていた。なんとリズ・ライトとミュージシャンのひとりだった。ホテルまで歩いて帰っているところだった。リズ・ライト、ホテルまで徒歩で帰る・・・。まあもちろん、車も用意されているのだろうが、本人が歩いて帰りたいと言ったのだろう。そのあたりが、素朴な23歳なのかもしれない。

夜風は涼しく、大きな観覧車のライトは消え、時刻を表す数字だけが光っていた。そして、リズの後ろには三日月が浮いていた。

(2003年9月18日木セカンド・横浜モーションブルー=リズ・ライト・ライヴ)

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残るリズ・ライトのライヴは20日(土)横浜モーションブルーで。
ただし、満員。立ち見なら可能かもしれません。


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リズ・ライト・ライヴ
2003年9月17日〜20日 横浜モーションブルー
モーションブルーのサイト(日本語)
http://www.motionblue.co.jp/schedule/index.html



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