ハックルベリー・フレンド。

「ムーン・リヴァー」っていい曲ですね。(10月15日付け日記) この曲の歌詞の意味を何度も何度も聞いて再考しました。映画『ティファニーで朝食を』を借りて見ました。なるほど。映画を見て、新たな発見、納得した部分がありましたので、少し書いて見ます。

映画の主人公ホリー(オードリー・ヘップバーン)は訳ありの美しい女性。その彼女のアパートの上に住んでいる作家(ジョージ・ペパード)も金持ちのご夫人のつばめもしているという訳ありの男。この映画は彼らふたりの間のラヴストーリーです。

映画の中ではオードリーがアパートの窓辺でギター片手に歌います。これは名シーン。この曲は、ヘンリー・マンシーニがあまり音域のないオードリーのために、音も一オクターブ以内で作られました。そして、このオードリーが歌うようにジョニー・マーサーによって歌詞が書かれました。当初このシーンは、映画会社はカットしようとしたそうです。しかし、オードリー本人の希望もあり、採用されます。

タイトルとしては「ジューン・リヴァー」「レッド・リヴァー」「ブルー・リヴァー」などの候補もあがったといいます。しかし、結局、作詞家ジョニー・マーサーの実家近くに流れている「バック・リヴァー」の愛称「ムーン・リヴァー」に決めました。

曲のテーマは、映画の主人公オードリーが誰にも束縛されずに生きたい、世界に飛び出して、いろいろなものを見たいという希望をもつところにあります。その世界にでていく道筋がこの「ムーン・リヴァー」に象徴的に描かれています。

「いつか私は優雅にこの川を渡ってみせる」は、まさに優雅に世界に飛び出してみせる、という意味です。ティファニーにあこがれているオードリーです。優雅に世界にでるに決まっています。そして、この川のむこうには、夢もあれば、挫折もあります。そして、二人の漂流者が世界に一緒に飛び出す。この二人は、結局、オードリーとジョージになっていきます。二人の愛はなかなか最初のうちかみあっていません。だが、二人は同じ虹のかなたをめざしていたのです。それぞれ別の道で虹にアプローチしていたんですが、結局行きつく先は同じだった、というわけです。

そして、一番むずかしい一行が次です。

「マイ・ハックルベリー・フレンドとムーン・リヴァーと私」。さて、訳では「マイ・ハックルベリー・フレンド」を「冒険を共にする友達」としました。前の日記で書いたようにこれはマーク・トゥエインの小説からきています。一緒に川を上っていく友達です。さて、しかし、これは一体誰のこと? ジョージ・ペパードのことだと思いますか。違うんです。今回、わかりました、映画見て。(もっとも僕の解釈ですが)

その秘密はエンディングにありました。もし映画見てない人で映画を見る予定の人は、これより先に進まないように。(笑) もっとも何度もテレビなどでも放映されてますから、みなさんこのエンディングはご存知かもしれませんね。

エンディングで再び「ムーン・リヴァー」が流れます。このシーンでオードリーはずっと飼っていて、ブラジルに行くためについさきほど路上に捨ててしまった猫を雨の中で探します。同じくその猫を探しに来たジョージ。オードリーが猫を見つけ、ジョージと目があい、猫を間に抱いたままふたりは熱いキスをします。そう、この猫ちゃんこそ、ハックルベリー・フレンドとしか言いようがないのです! 二人とこの猫ちゃん=ハックルベリー・フレンド。3人で、一緒にこれから生きていくのです。

こういうのって100回くらい聞いていて、ふと101回目に「あ、そうだ!」ってわかるもんなんですねえ。現場100回とはよく言ったものです。翻訳の時も、わからないときは、「原文100回」ですね。(笑) 

そして、今度は最後のハックルベリー・フレンドの次に来るムーン・リヴァーは、ジョージのことも隠喩しているとも受け取れます。それまでジョージはずっとオードリーに生きる道筋をアドヴァイスしてきた。世界にでていくムーンリヴァーは、まさにジョージが照らしてきた川なんです。

映画のエンディングのところではちょっとだけ歌詞が違っています。最初のヴァージョンはTwo drifters off to see the world なんですが、エンディングではMoon River off to see the worldになってるんです。

ですから、「川の流れに私は身をゆだねる。ムーンリヴァーは世界に続く・・・」という意味になります。そして、猫ちゃんとジョージと私で、虹のかなたの夢に向かっていく、というわけです。

たかだか9行程度の歌なのにとても深みのあるお話ですね。以上、今日の世界名曲物語でした。

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ムーン・リヴァー

ムーン・リヴァー、それは1マイル(1.6キロ)以上の幅の大きな川
いつか、私は優雅にこの川を渡ってみせる
この川のかなたには夢もあれば、失望もある
川の流れのままに、私は身を任せる
二人の漂流者は、世界に出るために川を進んでいく

見るべき世界は数知れない
私たちは同じ虹のかなたを追い求めている
きっとその虹のかなたにはいいことが待っている
冒険を共にする友達と、ムーン・リヴァーと私

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(明日は真鍋太郎さんの個展のお話です)

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