【日野伝説かくありき】

伝説。

世界の日野が、番組のゲストに登場。その収録に立ち会った。

世界の日野は、とってもきさくな面白い人であった。

世界の日野は、プロモーションにやってきた新作は何枚目のアルバムですかと問われ、「僕はいつも3枚目」だと言っていた。

世界の日野は、駄洒落が大好きだった。

そして世界の日野は、自分がインタヴューされ書かれた記事や、オンエアーされたものを決して読んだり、聞いたりしないと宣言していた。

世界の日野は、めちゃくちゃ潔かった。

表現者たるもの、自分が人前で表現したもの、公開したものについては、何を言われ、何を書かれても、それを甘んじて受け入れるだけの度量がないとだめだ。誉められるのもけなされるのも、表現者の宿命。世界の日野は、表現者の何たるかを完璧に知っていた。

収録が始まる前に軽く雑談をしていたのだが、その段階からざくざく財宝のような言葉、コメントがでてきた。あわててメモしたもの、記憶に残ったものをアットランダムにご紹介しよう。

「選曲? なんでもいいよ。好きな曲、選んでよ。(僕にとっては、完成したアルバムは)もう終わったものだから。古い作品、レコーディングを終えた作品は一切聴かない。過去は振り返らない。(録音した)曲というのは、まさに今日のドキュメント。今日、演奏家がやったことの証拠。若干の間違いがあっても、ミスっても、それはその日の自分のドキュメントだからいいじゃない。それをかっこよく直そうなんて変な考えを出しちゃいけないよ。人生自体がやり直しがきかないだろ。それと同じだ。潔く、勇気を持って、成功も失敗も受け入れる。それも人生ということだ」

「取材されたもの、書かれたもの、絶対読まないね。こうやって収録されたものも、後からオンエアーとか絶対聴かない。もし、自分の作品が酷評されているのを読んだら、頭来るじゃない。自分が言ったことと違うことを書かれたら、それでもまた『この野郎』と思う。自分は、自分が言ったことに責任を持っている。だから、発言には自分が全責任を負う。だけどそれが後で(ライターによって)どう書かれるかは、関係ない。昔は、結構そういうの読んで、頭来たら、今度会った時に殴り倒してやろう、なんて熱くなってたけど(笑)、最近は読まないから、そうはならないね。取材した後は、どうぞ(ライターの方)お好きにお書きください、って感じだね」

「自分が舟だとするじゃない。そうすると、世界中を航海するうちに、その舟には藤壺がくっついて、舟が重くなっていく。でも、その重さがいい。深みが出てくる。一緒にやるミュージシャンからも刺激を受け、いいサウンドを作る。藤壺が重くなればなるほど、(バンドの)サウンドも重くなっていく」

「ミュージシャン、アーティストは、自分が一番強いんだということを吐いて、それを多くの人に受け入れて欲しいとは思ってる」

「ミュージシャンっていうのは、例えばレコーディングの日が決まるとなると、その日まで毎日一日24時間、ずっとそのことばかり考えている。で、全然曲なんか書けなくて。悶々として。でも、自分のエゴとかをどこかにぱ〜と全部捨てて、気持ちをニュートラルにしていると、誰かの力によってやらされることになるんだ。曲が書けたり、演奏ができたり。自分の力とかじゃなくて、誰かの力にやらされている、って感じになる。神経をニュートラルにして、集中していると、力が抜けていい演奏ができたり、いい曲がふと書けたりするものなんだ。欲みたいなものがなくなるといいんだろうね」

「スキーは59歳で1級を取った。始めて7年位かな。やりだすと徹底的にやってしまう。結局ね、僕は負けず嫌いなんですよ。加山雄三さんも言ってたけど、彼も負けず嫌いなのね。だから、見えないところで努力する。自分に課すんだね」

「この前、伊万里焼やってね。そこに絵を描いたんだけどね。それから絵の個展なんかもやるのよ。コテンコテンなんてね。(笑) でも、絵もデフォルメしないと気がすまないんだ」

「子供の頃、親父にタップダンスをやらされてね、で、やって。それも好きで、トランペットもずっと好きで、今でも吹くのが大好きでね。この前、何日か吹かなかった日があって、久々に吹いてみたら、音はひどいんだけど、トラペット吹くの楽しい、なんて思ちゃってね。まあ、(自分の人生は)線路引かれてて、その線路の上を歩いているっていう感じかな」

「結局、ミュージシャンも人間同士のコミュニケーションなんだよ。自分が若手のミュージシャンからインスパイアーされていい演奏ができることもあるし、僕も若手に影響を与えていることもきっとあるのだろう」

「音楽はピュアかそうでないかだけで判断する」

実にスリリングで面白い語録だった。

世界の日野は、最高だった。

そして、世界の日野はおそらくこの文章を読むことはない。

(なお、番組はすでにKMIX、FM横浜で放送されました)

ENT>MUSIC>ARTIST>Hino, Terumasa

コメント