【ニック岡井氏通夜〜「マイ・ガール」が流れて・・・】
塊魂。
2007年11月11日60歳で逝去した日本のダンスクリエイターの第一人者、ニック岡井さんの通夜が18日、午後6時から品川の臨海斎場で行われ、700人近くの人が訪れ、故人を偲んだ。
祭壇には3枚の写真が大きく飾られている。向かって左にかっこよくダンスポーズを決めたニック、中央にDJをやっているニック、そして、アーティスト岡伸昭さんが作ったニックの足跡をキャンバスに記した作品『ニックのソウル・ステップ』制作時の記念写真だ。左隅にニックがDJをするときに使っていたレコードを入れるバッグが。そこからジャケットの端がぼろぼろになっているサム・クックの「ベスト・アルバム」が顔を出している。
室内の一般弔問席はすぐに埋まり、入れ切れない人たちが外で中の様子をうかがう。6時ちょうどに始まり、まず、「ニック岡井さんのルーツとなった曲を献歌します」とアナウンスされた。指を鳴らす音が聞こえたかと思ったら、なんと「マイ・ガール」のア・カペラ・ヴァージョンだった。ニックが17歳のときに聴いて、彼の生涯を決定付けた1曲だ。このア・カペラを聴きながら、ずっと僕は、たった1曲の歌が人に与える影響の大きさというものをつくづく感じていた。ニックはこれを聴いて、テンプスにあこがれ、彼らのような「テンプテーションズ・ウォーク」をしたいと思い、ソウル・ダンスに、ソウル・ミュージックにのめりこんだ。のめりこんで以来43年、ずっと一筋に走ってきた。すごいことだ。
そして、マーヴィン・ゲイの「セクシュアル・ヒーリング」がかかった。弔辞を述べたマイケル鶴岡さんは棺に横たわるニックに「『マイ・ガール』にマーヴィン・ゲイと言えば、もうニックさんが踊りだしそうじゃないですか」と声をかけた。
お坊さんのお経が読まれる中、延々と焼香の列が続いた。一度に9人焼香ができたが、結局最後の人が終えるまで1時間を越えた。後で聞けば親族関係者を除いて700人近い数に上った、という。その後、ニックへのお別れの機会が作られた。弔問客の中の一人の方が「ビール券、買ってきたからね。足りなくなったら、電話して」と言いながら、そのビール券を棺にいれた。ニックが好きだったタバコ「クール」を横の台にそっと置く人、缶ビールをそっと置く人、思い出の写真を置く人・・・。おそらく、700通りのニックへの思い出が渦巻いたことだろう。
弔問中流れていたソウルの曲の数々がみんなニックが好きな曲ばかりだったことに気付き、泣きそうになった。江守さんがニックの好きな曲ばかりを選んで作ったCDだった。隣にいた川畑さんにそれを言うと、「みんなニックの好きな曲ばかりだね」とぽつりと言う。マーヴィン・ゲイの「アブラハム・マーティン・アンド・ジョン」(泣ける)、アレサ・フランクリン「ベイビー・ベイビー・ベイビー」、インプレッションズの「ピープル・ゲット・レディー」(これも旅立ちには泣ける)、「ウー・チャイルド」・・・。どれをとっても、ニックがターンテーブルでDJをやっている姿が浮かび上がってしまう。「マイ・ガール」のア・カペラ・ヴァージョンも江守さんのアイデアだろう。これ以上ない最高の演出だ。
ちなみにこのア・カペラの「マイ・ガール」は普通に探してもどこにもない。1995年2月にリリースされた5枚組のボックスセット『エンペラーズ・オブ・ソウル』に「シークレット・トラック」として収録されているもの。アルバム・ジャケットやレーベルにも、「マイ・ガール」(ア・カペラ)のクレジットはないのだ。このボックスを持っていても、この存在を知らない人は意外と多い。
通夜に先立ち、『ソウル・ブレンズ』ではニック岡井トリビュートとして、ニックゆかりの曲をDJオッシーが渾身の選曲で2時間にわたってお送りした。ここに記しておきたい。(コーナー、ゲストコーナーでの楽曲は除く)
(トップ)My Girl / Temptations
Reach Out, I’ll Be There
Just My Imagination / Temptations
Get Ready / Temptations
Super Bad / James Brown
What’s Going On / Marvin Gaye
Stop! In The Name Of Love / Supremes
I Was Made To Love Her / Stevie Wonder
Midnight Train To Georgia / Gladys Knight & Pips
(ラスト)可愛い人よ / クック・ニック&チャッキー
オンエアー中、DJオッシーも「きっと、ニックさん、聴いててくれてますよ。ほら、ニックさんが降りてきた・・・」と言っていたが、このラインアップを短い時間の中でかけている間、ニックの顔とダンスが脳裏を駆け巡った。
僕は今後、「マイ・ガール」がどこからか流れてくるたびに、ニックのこと、ニックのこの葬儀のことを必ず思い出すだろう。「マイ・ガール」とニック岡井さんは、僕の中で強烈に「ひとつのもの」になった。「ひとつのもの」は目には見えないが「塊(かたまり)」であり、「魂(ソウル)」なのだと思う。
今日(11月19日=月)は同じ臨海斎場で告別式、朝11時から。盟友ミラクルの川畑さんは、18日にニックがDJをする予定だったイヴェントで、ニックの代わりにピンチヒッターDJとして登場する。告別式までの間、寝られなければ、起きたまま行く、と言って斎場をあわただしく後にした。
ENT>OBITUARY>Okai, Nick (9.29.1947 – 11.11.2007, 60)
塊魂。
2007年11月11日60歳で逝去した日本のダンスクリエイターの第一人者、ニック岡井さんの通夜が18日、午後6時から品川の臨海斎場で行われ、700人近くの人が訪れ、故人を偲んだ。
祭壇には3枚の写真が大きく飾られている。向かって左にかっこよくダンスポーズを決めたニック、中央にDJをやっているニック、そして、アーティスト岡伸昭さんが作ったニックの足跡をキャンバスに記した作品『ニックのソウル・ステップ』制作時の記念写真だ。左隅にニックがDJをするときに使っていたレコードを入れるバッグが。そこからジャケットの端がぼろぼろになっているサム・クックの「ベスト・アルバム」が顔を出している。
室内の一般弔問席はすぐに埋まり、入れ切れない人たちが外で中の様子をうかがう。6時ちょうどに始まり、まず、「ニック岡井さんのルーツとなった曲を献歌します」とアナウンスされた。指を鳴らす音が聞こえたかと思ったら、なんと「マイ・ガール」のア・カペラ・ヴァージョンだった。ニックが17歳のときに聴いて、彼の生涯を決定付けた1曲だ。このア・カペラを聴きながら、ずっと僕は、たった1曲の歌が人に与える影響の大きさというものをつくづく感じていた。ニックはこれを聴いて、テンプスにあこがれ、彼らのような「テンプテーションズ・ウォーク」をしたいと思い、ソウル・ダンスに、ソウル・ミュージックにのめりこんだ。のめりこんで以来43年、ずっと一筋に走ってきた。すごいことだ。
そして、マーヴィン・ゲイの「セクシュアル・ヒーリング」がかかった。弔辞を述べたマイケル鶴岡さんは棺に横たわるニックに「『マイ・ガール』にマーヴィン・ゲイと言えば、もうニックさんが踊りだしそうじゃないですか」と声をかけた。
お坊さんのお経が読まれる中、延々と焼香の列が続いた。一度に9人焼香ができたが、結局最後の人が終えるまで1時間を越えた。後で聞けば親族関係者を除いて700人近い数に上った、という。その後、ニックへのお別れの機会が作られた。弔問客の中の一人の方が「ビール券、買ってきたからね。足りなくなったら、電話して」と言いながら、そのビール券を棺にいれた。ニックが好きだったタバコ「クール」を横の台にそっと置く人、缶ビールをそっと置く人、思い出の写真を置く人・・・。おそらく、700通りのニックへの思い出が渦巻いたことだろう。
弔問中流れていたソウルの曲の数々がみんなニックが好きな曲ばかりだったことに気付き、泣きそうになった。江守さんがニックの好きな曲ばかりを選んで作ったCDだった。隣にいた川畑さんにそれを言うと、「みんなニックの好きな曲ばかりだね」とぽつりと言う。マーヴィン・ゲイの「アブラハム・マーティン・アンド・ジョン」(泣ける)、アレサ・フランクリン「ベイビー・ベイビー・ベイビー」、インプレッションズの「ピープル・ゲット・レディー」(これも旅立ちには泣ける)、「ウー・チャイルド」・・・。どれをとっても、ニックがターンテーブルでDJをやっている姿が浮かび上がってしまう。「マイ・ガール」のア・カペラ・ヴァージョンも江守さんのアイデアだろう。これ以上ない最高の演出だ。
ちなみにこのア・カペラの「マイ・ガール」は普通に探してもどこにもない。1995年2月にリリースされた5枚組のボックスセット『エンペラーズ・オブ・ソウル』に「シークレット・トラック」として収録されているもの。アルバム・ジャケットやレーベルにも、「マイ・ガール」(ア・カペラ)のクレジットはないのだ。このボックスを持っていても、この存在を知らない人は意外と多い。
通夜に先立ち、『ソウル・ブレンズ』ではニック岡井トリビュートとして、ニックゆかりの曲をDJオッシーが渾身の選曲で2時間にわたってお送りした。ここに記しておきたい。(コーナー、ゲストコーナーでの楽曲は除く)
(トップ)My Girl / Temptations
Reach Out, I’ll Be There
Just My Imagination / Temptations
Get Ready / Temptations
Super Bad / James Brown
What’s Going On / Marvin Gaye
Stop! In The Name Of Love / Supremes
I Was Made To Love Her / Stevie Wonder
Midnight Train To Georgia / Gladys Knight & Pips
(ラスト)可愛い人よ / クック・ニック&チャッキー
オンエアー中、DJオッシーも「きっと、ニックさん、聴いててくれてますよ。ほら、ニックさんが降りてきた・・・」と言っていたが、このラインアップを短い時間の中でかけている間、ニックの顔とダンスが脳裏を駆け巡った。
僕は今後、「マイ・ガール」がどこからか流れてくるたびに、ニックのこと、ニックのこの葬儀のことを必ず思い出すだろう。「マイ・ガール」とニック岡井さんは、僕の中で強烈に「ひとつのもの」になった。「ひとつのもの」は目には見えないが「塊(かたまり)」であり、「魂(ソウル)」なのだと思う。
今日(11月19日=月)は同じ臨海斎場で告別式、朝11時から。盟友ミラクルの川畑さんは、18日にニックがDJをする予定だったイヴェントで、ニックの代わりにピンチヒッターDJとして登場する。告別式までの間、寝られなければ、起きたまま行く、と言って斎場をあわただしく後にした。
ENT>OBITUARY>Okai, Nick (9.29.1947 – 11.11.2007, 60)
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