◎『ミリオンダラー・カルテット』~サム・フィリップスの「ソウル・サーチン」

【Million Dollar Quartet: Soul Searchin For Sam Philips】

満員。

渋谷に新しくできたヒカリエ内にミュージカル専用の劇場オーブがオープン。その第二弾演目として『ミリオンダラー・カルテット』という作品が上演されている。昼の2時の回、かなり年齢層が高い人たちで満員。びっくりした。

これは、エルヴィス・プレスリー、カール・パーキンス、ジョニー・キャッシュ、ジェリー・リー・ルイスというロックンロール創成期にスターになった(正確にはその後にスターになる人も含め)四人が、彼らを育てたメンフィスのサン・レコード社長、サム・フィリップスによって集められた1956年12月4日にスポットを当てた物語。そのスタジオでの模様を取材したメンフィスの新聞記者が彼ら4人でのレコーディング(ジャム・セッション)を「ミリオンダラー・カルテット」(100万ドルの4人組)と名付けたことから有名になった。

2006年にフロリダでプレミア公開され、その後2008年シカゴ、2010年ブロードウェイ、2011年ウェストエンドで公開され大ヒットとなったもの。2011年からは全米ツアー・ヴァージョンもある。

カルテット。

舞台は、テネシー州メンフィスのサン・レコードのスタジオ。そこにインディ・レーベル、サン・レコード社長ですでにエルヴィスを育てて業界内でも一目置かれていたサム・フィリップスがエルヴィスら4人をスタジオに招く。すでにスターのエルヴィス、やっと初の大ヒットが出たカール・パーキンス、デビューしたもののまだ小ヒットしかでていないジョニー・キャッシュ、まだデビューしていない新進気鋭のジェリー・リー・ルイス。

各人それぞれのキャラクターの違いがよく出ていて、ストーリー展開も構成がよくおもしろかった。一言で言えば、これはサン社長サム・フィリップスの「ソウル・サーチン」の物語でもあった。また、各所で演奏されるライヴ楽曲が楽しく、ライヴを見たような感じでもあった。

同じような才能を持った4人から、エルヴィスだけ一人抜け出て先にスーパースターになり、その4人の力関係がわずか1年で変わっていく。エルヴィスをメジャーのRCAに売ったサム・フィリップスは、そのことを悔やむが、どうにもしようがない。たった1日にスポットを当て、その中から過去のエピソードをフラッシュバックする手法で起承転結をうまく説明する。

サム・フィリップスの「黒人が歌っては売れないが、そのエネルギーあふれるものを白人にやらせれば売れるんだ、と閃いた」というところは、まさにアメリカの白人ロック音楽、ロックンロールが世界に広がる原点の瞬間といってもいい。しかし、そんな商売人で売れる歌手を見抜く才能を持っていたサムも、南部の田舎者としてニューヨークの連中に出し抜かれていく。サムが育てたエルヴィス、カール・パーキンス、そして、ジョニー・キャッシュがいずれもサムの下を離れ、メジャーのRCAやコロンビアに引き抜かれる。このあたりの悲喜こもごもが弱肉強食のアメリカ音楽業界ではあるが、見ていて物悲しくもある。

そして、サムは、ジョニーが進みたいゴスペルには興味を示さず、彼らに「もっとソウルを込めて歌うんだ」と指導する。

4人の歌手とサム・フィリップスのキャラクターが実にうまく描けていて、物語がおもしろく進む。これは映画にもできると思った。

力関係。

この4人の名前はそこそこアメリカン・ポップスや洋楽を聞いてきた人にとってはおなじみの名前。だが、社長サム・フィリップスとその4人の先輩後輩の間柄や、それぞれがどんな思いや嫉妬心を持っていたかなどは、レコードからはわからない。こうした物語から、若干はフィクションがはいるかもしれないが、その内実がわかるのはとてもおもしろい。

この4人の中でジェリー・リー・ルイスが一番「これからの新人」でみんなから、「若いヤツ」とされていたのが新鮮だった。

元々カール・パーキンスが書いてヒットさせた「ブルー・スエード・シューズ」をエルヴィス・プレスリーがカヴァーして、オリジナルのパーキンス以上にヒットさせてしまい、この曲は以後、「エルヴィスの持ち歌」のようになってしまった。そのことを、パーキンスがエルヴィスに怒り詰め寄るシーンなどは、いかにもリアルだ。

ミュージカルのエンディングで、ステージ上からキラキラの派手な衣装が降りてきて、この4人のライヴ・ショーが行なわれる。このあたりは、まさにライヴそのもの。楽しいエンディングだ。この頃になると観客席も立ち上がり、ライヴ鑑賞状態に。

ソウル・サーチン。

僕はサム・フィリップスの視点からの「ソウル・サーチン」が書けるなあと思った。もう一点、この4人にはそれぞれ立派な才能があり遅かれ早かれスターになるが、エルヴィスだけひとつ先に抜け出た。しかし、一番最初に亡くなってしまう。このあたりも興味深い。なんとなく、マイケル・ジャクソンともかぶさる。兄弟の中でひとりずばぬけて才能があり、世界的に抜け出る。だが、一番最初に亡くなる。才能がある人だからいき急ぐのか。まさに「ライフ・オン・ア・ファースト・レーンLife On A Fast Lane」だ。

そして、2012年、エルヴィス、サムらで唯一生存しているのはジェリー・リー・ルイスだけ。

ちなみに、エルヴィスとジェリー・リー・ルイスが1935年(昭和10年)生まれ。ジョニーとカール・パーキンスは1932年(昭和7年)生まれ。サム・フィリップスは1923年生まれ。

カール・パーキンスにしてみれば、自分より3歳も下の後輩が先にスターダムに上がり、しかも自分の曲をわがもの顔でカヴァーしていたら、嫉妬、やっかみ、怒りの感情もうずまくものだろう。

エルヴィスをRCAに売り渡したサムの後悔、悔しさなども出ていて、ヒット曲の悲喜こもごもがとてもおもしろかった。

アナログレコード大のパンフレットもいい感じだ。

しかし、驚いたのは昼の2時で満員だったこと。ミュージカルってこんなに人気あるんだ。あるいは、みんな東急百貨店の顧客なのだろうか。しっかりプロモーションが行き届いているのだろう。

そうそう、ミュージカルは日本で見るに限る。字幕があるから。(笑)

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東京は渋谷オーブで9月17日まで、その後9月20日~22日まで大阪オリックス劇場で。お勧めします。

■ミリオンダラー・カルテット サントラ

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0085DWDZE/soulsearchiho-22/ref=nosim/

■公式ページ

http://theatre-orb.com/lineup/02/

■出演メンバー

エルヴィス・プレスリー役:エディー・クレンデニング
カール・パーキンス役:リー・フェリス
ジョニー・キャッシュ役:デレク・キーリング
ジェリー・リー・ルイス役:リーヴァイ・クライス

サム・フィリップス役:クリストファー・ライアン・グラント

ダイアン役:ケリー・ラモント
フルーク役、ドラマー:ダン・リアーリ
ジェイ・パーキンス役、ベースプレイヤー:チャック・ゼイヤス

■セットリスト

performance started 14:05
01. Blue Suede Shoes (Music and Lyrics By Carl L. Perkins) – Company
02. Real Wild Child (Music and Lyrics By John O’Keefe, John Greenan and Dave Owens) – Jerry Lee Lewis
03. Matchbox (Music and Lyrics By Carl L. Perkins) – Carl Perkins
04. Who Do You Love? (Music and Lyrics By Ellas McDaniel) – Carl Perkins
05. Folsom Prison Blues (Music and Lyrics By John R. Cash) – Johnny Cash
06. Fever (Music and Lyrics By Eddie Cooley and Johnny Davenport) – Dyanne
07. Memories Are Made of This (Music and Lyrics By Terry Gilkyson,Richard Dehr and Frank Miller) – Elvis Presley
08. That’s All Right (Music and Lyrics By Arthur Crudup) – Elvis Presley
09. Brown Eyed Handsome Man (Music and Lyrics By Chuck Berry) – Company
10. Down by the Riverside – Company
11. Sixteen Tons (Music and Lyrics By Merle Travis) – Johnny Cash
12. My Babe (Music and Lyrics By Willie Dixon) – Carl Perkins
13. Long Tall Sally (Music and Lyrics By Robert Blackwell, Enotris Johnson and Richard Penniman) – Elvis Presley
14. Peace in the Valley (Music and Lyrics By Thomas A. Dorsey) – Company
15. I Walk the Line (Music and Lyrics By John R. Cash) – Johnny Cash
16. I Hear You Knocking (Music and Lyrics By Dave Bartholomewand Pearl King) – Dyanne
17. Party (Music and Lyrics By Jessie Mae Robinson) – Carl Perkins and Company
18. Great Balls of Fire (Music and Lyrics By Otis Blackwell and Jack Hammer) – Jerry Lee Lewis
19. Down by the Riverside (Reprise) – Company
20. Hound Dog (Music and Lyrics By Jerry Leiber and Mike Stoller) – Elvis Presley
21. Ghost Riders (Music and Lyrics By Stan Jones) – Johnny Cash
22. See You Later Alligator (Music and Lyrics By Robert Guidry) – Carl Perkins
23. Whole Lotta Shakin’ Goin’ On (Music and Lyrics By Curly Williams) – Jerry Lee Lewis
show ended 15:48

(2012年9月13日木曜、渋谷ヒカリエ・シアター・オーブ、ミュージカル『ミリオンダラー・カルテット』)
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