■ナイル・ロジャーズ語る(パート2)~2本のミュージカル~『ダブル・タイム』と『フリーク・アウト』
【Nile Rodgers’s Musical: Double Time & Freak Out】
ミュージカル。
昨年、本ブログでも、ナイル・ロジャーズが『ダブル・タイム』というミュージカルを準備中であることをご紹介した。昨夏にアラバマ州のシェークスピア劇場でいわゆる「リーディング」という基本朗読のような形で、ミュージカルの前段階のショーを見せ、好評を博した。
この『ダブル・タイム』については、昨年日本の衛星有料放送局ワウワウ(WOWOW)で放送されたドキュメンタリーでも、その様子が紹介されている。
ドキュメンタリー全編(約44分)がナイルのブログで見られる。↓
http://nilerodgers.com/blogs/planet-c-in-english/1531-every-emotion
『ダブル・タイム』は、最初の黒人ブロードウェイ・パフォーマー(タップ・ダンサー)としてスーパースターとなったアラバマ出身のレオナード・ハーパーの人生と時代を描く音楽コメディーを書こうとする白人の脚本家とハーパーの物語。これが二つの時代(古い1930年代と新しい最近の時代)で物語が同時に進行する。
もともとの舞台、すなわちレオナード・ハーパーが活躍したのは1920年代から30年代だが、それをミュージカルとして脚本を書きプロデュースしているのは、現代だ。一見複雑だが、進行はシンプルでわかりやすいはずだとナイルは言う。オリジナルの時代と、それを描く現代という二つの時代を描くのでタイトルは『ダブル・タイム』。したがって、20年代の人物と21世紀の「レオナード役」を演じる人物と、同じ主人公役が二人いる。
ハーパー(1898年4月9日~1943)は、どれくらいすごい人物かというと、たとえば、フレッド・アステアやマルクス・ブラザーズらが彼の元にタップを習いにきた。彼のタップ・ショーの合間にビリー・ホリディが歌っていた。また、プロデューサーとしてリナ・ホーン、ファッツ・ウォーラー、ルイ・アームストロングなどのショーをてがけた。
ナイルは2005年頃からこのプロジェクトにかかっている。
物語では白人が黒人を描こうとするがゆえにさまざまな葛藤と、問題が生まれる。人種差別もあるため、白人が黒人を描くことで、誰からも理解を得られない。最終的にハーパーがその作家に手を差し伸べる。そうした紆余曲折を脚本の中にストーリーとして描いているという。
段階。
さて、その後、このプロジェクトはどうなったか。
ミュージカルといえば、ブロードウェイだが、実はブロードウェイの劇場でかかるまでには、いくつかの段階がある。
ざっくり言うと、「リーディング」(読み合わせ)、「ワークショップ」、ブロードウェイ以外の全米各地のシアター(2-300劇場あるらしい)、そしてブロードウェイという段階だ。
ミュージカル本編をブロードウェイの劇場でかけるには、有名な劇場を押さえなければならない。人気劇場だと1年先まで埋まっている。また人気ミュージカルがかかっていると、なかなか空かない。しかも、一本を始めるには大きな予算がいる。企画もたくさん上がってくるが、どれをかけたら当たるかは、なかなかわからない。
そこで、あまりお金をかけずにそのミュージカルがどのようなものになるかを、資金提供者(資本家・投資家)に見せる必要ができてくる。
まず「リーディング」というのは、主な出演者が、脚本をステージで読んで聞かせて、ストーリーを見せる。ときに、若干のダンサーがいたり、音楽が流れたりすることもある。ナイルが昨年アラバマでやったのは、この『ダブル・タイム』の「リーディング」だ。大きな舞台やたくさんの出演者、スタッフがいらないために、小規模な予算で、どのようなミュージカルになるかが、わかる。ナイルの役目はこのミュージカルでは、音楽。ストーリーにあわせた音楽・曲を作り、ミュージシャン、シンガーに歌わせる。
これが大評判だったので、今度は次のステップに進む。
それが「ワークショップ」だ。
「ワークショップ」とは、「リーディング」が俳優が台本をステージで読むというシンプルなものに対し、出演者の衣装もあわせ、俳優もセリフを覚え、ダンサーの踊りも大々的に入り、ミュージシャンも多くなってバンド・サウンド、あるいはオーケストラでより立体的になる。大規模な舞台設定こそないが、ブロードウェイなどで実際にやるもののミニチュア版みたいな感じになっている。
これを全米各地のシアターのバイヤーが見て、良いと思えば、自分のシアターにかけたりする。ブロードウェイに行くにはかなりのヒットが見込めないとならないが、地方の一劇場がピックアップする場合は、それほど大規模ではなくても、上演可能になる。
「リーディング」で評判を得ると、「ワークショップ」をやって、それを受けて地方の劇場にかけてもらう、あるいは、ブロードウェイのバイヤーが買いたいと手をあげれば、ブロードウェイにかかることにもなる。
「ワークショップ」は、自分が一緒にやりたい監督、振付師、主役を演じる俳優たちを、できる限り本番と同じようにする。そのためには、一定期間、売れっ子監督や振付師らを押さえなければならない。
『ダブル・タイム』について、ナイルは今夏にその「ワークショップ」ができればいいと考えている。
ただし、ナイルが考える一緒にやりたいディレクター(監督)やダンサー、俳優などのスケジュールがうまく合致しないと実現しない。そのスケジュール調整が最大の仕事で、これは力のあるエージェントがやる。ナイルはこのほどそうしたエージェントとミュージカルに関して契約した、という。
ナイルによれば、この『ダブル・タイム』では基本的には音楽担当で、プロデューサーではない。なので、ナイルが希望する監督と一緒にできるかはまだ未定だ。
別プロジェクト。
そして、これと別にまったく新しいミュージカルのプロジェクトの話が持ち上がっている、という。それが彼の自伝本『ル・フリーク』(2011年11月全米発売)を元にしたもので、ミュージカルの仮題は、『フリーク・アウト』。この本に興味を持った周辺から声がかかっている。
この『フリーク・アウト』の場合、ナイルは音楽だけでなく、脚本、うまくいけばプロデューサー的な立場でも参加できる、という。そうなると、かなり自由がきくらしい。
ただ彼の話を聞くと、ミュージカルが一本実現しブロードウェイの劇場にかかるまでは本当にたくさんのハードルがあるという。まさに、当初のアイデアから完成まで10年くらいかかるのは、ざららしい。
ぜひ、どちらかでもよいので、ナイルのミュージカルが実現してほしいところだ。
ナイル・ロジャーズ、ミュージカル『ダブル・タイム』に挑戦
2011年04月29日(金)
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-10871704382.html
■ ナイル・ロジャーズ今回ライヴ評
2012年04月20日(金)
シック・ナイル・ロジャーズ、バーナード・エドワーズの命日にライヴ~12月年末カウントダウンに再来日を発表
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-11227042415.html
■過去ナイル・ロジャーズ関連記事
ナイル・ロジャーズ、1日だけのブルーノート・ライヴ
2011年05月31日(火)
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-10907507216.html
(前回来日記事)
ナイル・ロジャーズ、万感の思いを込めて15周年ライヴ・スタート
2011年04月14日(木)
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-10860777137.html
(前々回来日記事)
ナイル・ロジャーズ来日記念特集~過去ナイル関連記事
2011年04月15日(金)
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-10861031113.html
(過去記事一覧)
■ナイル・ロジャーズ 『エヴリバディ・ダンス』最新ベスト・ヒット集(ライナーノーツ・吉岡正晴)
シックとしての大ヒット曲すべて、さらにプロデュース楽曲などを2枚組みに網羅。もし最初に買うのであれば、完全お勧め盤。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B004L295PO/soulsearchiho-22/ref=nosim/
ENT>ARTIST>Rodgers, Nile
ENT>MUSICAL>Double Time, Freak Out
【Nile Rodgers’s Musical: Double Time & Freak Out】
ミュージカル。
昨年、本ブログでも、ナイル・ロジャーズが『ダブル・タイム』というミュージカルを準備中であることをご紹介した。昨夏にアラバマ州のシェークスピア劇場でいわゆる「リーディング」という基本朗読のような形で、ミュージカルの前段階のショーを見せ、好評を博した。
この『ダブル・タイム』については、昨年日本の衛星有料放送局ワウワウ(WOWOW)で放送されたドキュメンタリーでも、その様子が紹介されている。
ドキュメンタリー全編(約44分)がナイルのブログで見られる。↓
http://nilerodgers.com/blogs/planet-c-in-english/1531-every-emotion
『ダブル・タイム』は、最初の黒人ブロードウェイ・パフォーマー(タップ・ダンサー)としてスーパースターとなったアラバマ出身のレオナード・ハーパーの人生と時代を描く音楽コメディーを書こうとする白人の脚本家とハーパーの物語。これが二つの時代(古い1930年代と新しい最近の時代)で物語が同時に進行する。
もともとの舞台、すなわちレオナード・ハーパーが活躍したのは1920年代から30年代だが、それをミュージカルとして脚本を書きプロデュースしているのは、現代だ。一見複雑だが、進行はシンプルでわかりやすいはずだとナイルは言う。オリジナルの時代と、それを描く現代という二つの時代を描くのでタイトルは『ダブル・タイム』。したがって、20年代の人物と21世紀の「レオナード役」を演じる人物と、同じ主人公役が二人いる。
ハーパー(1898年4月9日~1943)は、どれくらいすごい人物かというと、たとえば、フレッド・アステアやマルクス・ブラザーズらが彼の元にタップを習いにきた。彼のタップ・ショーの合間にビリー・ホリディが歌っていた。また、プロデューサーとしてリナ・ホーン、ファッツ・ウォーラー、ルイ・アームストロングなどのショーをてがけた。
ナイルは2005年頃からこのプロジェクトにかかっている。
物語では白人が黒人を描こうとするがゆえにさまざまな葛藤と、問題が生まれる。人種差別もあるため、白人が黒人を描くことで、誰からも理解を得られない。最終的にハーパーがその作家に手を差し伸べる。そうした紆余曲折を脚本の中にストーリーとして描いているという。
段階。
さて、その後、このプロジェクトはどうなったか。
ミュージカルといえば、ブロードウェイだが、実はブロードウェイの劇場でかかるまでには、いくつかの段階がある。
ざっくり言うと、「リーディング」(読み合わせ)、「ワークショップ」、ブロードウェイ以外の全米各地のシアター(2-300劇場あるらしい)、そしてブロードウェイという段階だ。
ミュージカル本編をブロードウェイの劇場でかけるには、有名な劇場を押さえなければならない。人気劇場だと1年先まで埋まっている。また人気ミュージカルがかかっていると、なかなか空かない。しかも、一本を始めるには大きな予算がいる。企画もたくさん上がってくるが、どれをかけたら当たるかは、なかなかわからない。
そこで、あまりお金をかけずにそのミュージカルがどのようなものになるかを、資金提供者(資本家・投資家)に見せる必要ができてくる。
まず「リーディング」というのは、主な出演者が、脚本をステージで読んで聞かせて、ストーリーを見せる。ときに、若干のダンサーがいたり、音楽が流れたりすることもある。ナイルが昨年アラバマでやったのは、この『ダブル・タイム』の「リーディング」だ。大きな舞台やたくさんの出演者、スタッフがいらないために、小規模な予算で、どのようなミュージカルになるかが、わかる。ナイルの役目はこのミュージカルでは、音楽。ストーリーにあわせた音楽・曲を作り、ミュージシャン、シンガーに歌わせる。
これが大評判だったので、今度は次のステップに進む。
それが「ワークショップ」だ。
「ワークショップ」とは、「リーディング」が俳優が台本をステージで読むというシンプルなものに対し、出演者の衣装もあわせ、俳優もセリフを覚え、ダンサーの踊りも大々的に入り、ミュージシャンも多くなってバンド・サウンド、あるいはオーケストラでより立体的になる。大規模な舞台設定こそないが、ブロードウェイなどで実際にやるもののミニチュア版みたいな感じになっている。
これを全米各地のシアターのバイヤーが見て、良いと思えば、自分のシアターにかけたりする。ブロードウェイに行くにはかなりのヒットが見込めないとならないが、地方の一劇場がピックアップする場合は、それほど大規模ではなくても、上演可能になる。
「リーディング」で評判を得ると、「ワークショップ」をやって、それを受けて地方の劇場にかけてもらう、あるいは、ブロードウェイのバイヤーが買いたいと手をあげれば、ブロードウェイにかかることにもなる。
「ワークショップ」は、自分が一緒にやりたい監督、振付師、主役を演じる俳優たちを、できる限り本番と同じようにする。そのためには、一定期間、売れっ子監督や振付師らを押さえなければならない。
『ダブル・タイム』について、ナイルは今夏にその「ワークショップ」ができればいいと考えている。
ただし、ナイルが考える一緒にやりたいディレクター(監督)やダンサー、俳優などのスケジュールがうまく合致しないと実現しない。そのスケジュール調整が最大の仕事で、これは力のあるエージェントがやる。ナイルはこのほどそうしたエージェントとミュージカルに関して契約した、という。
ナイルによれば、この『ダブル・タイム』では基本的には音楽担当で、プロデューサーではない。なので、ナイルが希望する監督と一緒にできるかはまだ未定だ。
別プロジェクト。
そして、これと別にまったく新しいミュージカルのプロジェクトの話が持ち上がっている、という。それが彼の自伝本『ル・フリーク』(2011年11月全米発売)を元にしたもので、ミュージカルの仮題は、『フリーク・アウト』。この本に興味を持った周辺から声がかかっている。
この『フリーク・アウト』の場合、ナイルは音楽だけでなく、脚本、うまくいけばプロデューサー的な立場でも参加できる、という。そうなると、かなり自由がきくらしい。
ただ彼の話を聞くと、ミュージカルが一本実現しブロードウェイの劇場にかかるまでは本当にたくさんのハードルがあるという。まさに、当初のアイデアから完成まで10年くらいかかるのは、ざららしい。
ぜひ、どちらかでもよいので、ナイルのミュージカルが実現してほしいところだ。
ナイル・ロジャーズ、ミュージカル『ダブル・タイム』に挑戦
2011年04月29日(金)
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-10871704382.html
■ ナイル・ロジャーズ今回ライヴ評
2012年04月20日(金)
シック・ナイル・ロジャーズ、バーナード・エドワーズの命日にライヴ~12月年末カウントダウンに再来日を発表
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-11227042415.html
■過去ナイル・ロジャーズ関連記事
ナイル・ロジャーズ、1日だけのブルーノート・ライヴ
2011年05月31日(火)
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-10907507216.html
(前回来日記事)
ナイル・ロジャーズ、万感の思いを込めて15周年ライヴ・スタート
2011年04月14日(木)
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-10860777137.html
(前々回来日記事)
ナイル・ロジャーズ来日記念特集~過去ナイル関連記事
2011年04月15日(金)
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-10861031113.html
(過去記事一覧)
■ナイル・ロジャーズ 『エヴリバディ・ダンス』最新ベスト・ヒット集(ライナーノーツ・吉岡正晴)
シックとしての大ヒット曲すべて、さらにプロデュース楽曲などを2枚組みに網羅。もし最初に買うのであれば、完全お勧め盤。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B004L295PO/soulsearchiho-22/ref=nosim/
ENT>ARTIST>Rodgers, Nile
ENT>MUSICAL>Double Time, Freak Out
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