◇チベットの少年についての映画『オロ』(パート1)
2012年5月17日 音楽◇チベットの少年についての映画『オロ』(パート1)
【Olo. The Boy From Tibet (Part 1)】
チベット。
ドキュメンタリーで何をどう伝えるか。そのメッセージは、しかし、題材を取捨選択した瞬間、半分は伝わっていると言ってもいいかもしれない。
2002年、チベットから亡命している一人の老婆を追ったドキュメンタリー映画『モゥモ・チェンガ』を製作・発表した岩佐寿弥(いわさ・ひさや)監督が、それから10年を経て、再びチベットを題材にした新たな作品を完成させた。新作のタイトルは、『オロ(OLO. The Boy From Tibet)』。6歳のときにチベットから亡命した少年とその周辺を描いたドキュメンタリーだ。
チベットは1959年以来50年以上にわたり長く中国によって不当に支配・弾圧され、故国を追われたチベット難民はネパールやインドの難民キャンプに亡命し、そこで不本意な生活を続けている。チベットから亡命しようとする人は後を絶たず、しかし、それが途中で中国当局に発見されると、牢屋にいれられ拷問を受けたり、最悪の場合逃げるときに射殺されるなど、大変な目に逢う。チベット問題は国際社会でも大きな問題になっているが、なかなか継続的に世界的な重大関心事に至らない。
とはいうものの、インターネットがこれだけ普及し、情報が行き来するようになると、チベット解放の動きが徐々に加速しているかのようでもある。特にここ最近、チベットの人たちによる抗議の焼身自殺のニュースはひっきりなしに伝えられ、少しずつ関心を集めるようになっている。
人権が蹂躙(じゅうりん)されていること。それを声高に叫ぶのでもなく、しかし、市井(しせい)の人々の言葉できっちりと描くことによって、その弾圧の残虐さを逆に描くことにも成功している、本作はそのようなドキュメンタリーだ。大声や金きり声もない。もちろん血もでてこない。唯一映し出されるのは普通の生活から生まれる言葉と笑いと、そして真実から滲み出る涙だけ。それだけで、そこにあるメッセージはじわじわと伝わってくる。
予告編。
http://youtu.be/V18pWvUgC0M
~~~
少年。
1959年、中国のチベット侵攻に反対運動をして中国当局から拘束され、その後拷問されながら33年投獄されていたチベットの老僧パルデン・ギャツォ(Palden Gyatso)が2008年7月来日したときに、岩佐監督は再びチベットをテーマにした映画を撮ってみたいと強く思った、という。
その後、題材とすべき少年を探し、追い、その少年が見ている日常と周辺を撮影、3年かけて作品にまとめ『オロ』を完成させた。
■ 岩佐監督2002年のドキュメンタリー映画『モゥモ・チェンガ』について
2004/07/18 (Sun)
Movie "Moumochennga" : An Old Lady Talks About The Facts Of Life
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200407/diary20040718.html
今作『オロ』の舞台はチベット亡命政府があり、多くのチベット人が住むインド北部ダラムサラのマクロード・ガンジという標高1800メートルの小さな街。主人公オロは夏休みの間だけこのマクロード・ガンジに親戚の叔父さんを訪ねやってきた。オロが夏休みの間世話になるその叔父さんは、中国に対して強硬な姿勢を取る。そのひと夏の物語を中心にオロの冬休みなども撮影されている。
映画ではひたすら彼と彼の周囲の人々の日常が描かれる。坂道の多い街を駆けるオロ。河で水遊びをするオロ。大人と話をするオロ。少年だが、大人への階段をのぼりかけているオロは、少しずつチベットのこと、中国のことを叔父さんや周辺の大人たちから学び始める。この何でも吸収するオロの純粋無垢さが、実に気持ちいい。その無邪気な生き様を見ていると、彼らが不当に弾圧され苦労を強いられているということさえ忘れさせられてしまうほどだ。
しかし、インタヴューの中で、夫が映画を撮影したために中国当局に拘束されている妻、一度目の亡命に失敗し、中国警察に捕まり、ひどい体験をした少年の話などからも、中国の不当な弾圧ぶりが淡々と語られていく。
映画の撮影開始から完成まで3年間、オロは成長する。大人の3年間と違い、子供の3年間の成長ぶりは著しい。監督は、「僕の中でオロは『チベットの少年』という枠をこえて、地球上のすべての少年を象徴するまでに変容していった」と言う。
~~~
再会。
今回の『オロ』を製作するにあたり、岩佐監督らは、2009年11月にロケハンに行き、オロとなる少年を探し、その後2010年3月、6月、2011年1月と3回にわたり撮影を敢行した。基本的にはオロの学校が休みのときにしか撮影できないからだ。
この作品のハイライトのひとつは岩佐監督がオロを連れて、10年前に撮影したモゥモ・チェンガにまる2日かけて会いに行くところだ。
オロを撮影したマクロード・ガンジからモゥモ・チェンガが住んでいるネパールのポカラというチベット難民キャンプまでは車で2日以上かかる。監督によると、ほんとうに延々とでこぼこ道をひたすら走り、やっとの思いで到着するような場所だそうだ。そして、10年ぶりの再会だ。
チベットの難民はネパールやインドの難民キャンプにいるが、ネパールとお隣インドとの関係は良好で、インド・ネパール間は事実上パスポートなしでも出入りができるという。
岩佐監督の前作映画『モゥモ・チェンガ』は、チベットに住むごく普通の市井の人々に注目し、その中の老婆モゥモ・チェンガにフォーカスしてその姿を描いた。
一方、今回は少年オロにフォーカスして、その目を通して描いている。『オロ』と『モゥモ・チェンガ』両作品を見ると、それらがまるで車の両輪のようになって、チベットの姿がリアルに動き出す。視聴者にじっくり考えさせる「スペース」を持った作品だ。
2本を見て立体化してくる様は、まるで3D映画さながらともいえる。10歳前後のこれからの将来を担う少年と、80歳を越えるかというすべてを知り尽くした老婆との対比が実におもしろい。
この『オロ』と『モゥモ・チェンガ』を、ぜひアメリカで公開し、これらをリチャード・ギアーやジョージ・クルーニー、バーブラ・ストライサンドらに見て欲しい。そしてアメリカで1週間でもいいので公開してもらって、アカデミー外国映画部門にノミネートだ!
メインホームページ
http://www.olo-tibet.com/
6月から渋谷ユーロスペースなどで公開。全国では順次各地の単館系映画館で公開されます。詳細・予定などは上記ホームページをごらんください。
チベットの少年・製作委員会
〒180-0013 東京都武蔵野市西久保3-4-12 スコブル工房内
Eメール tibetoshonen@gmail.com
ファクス 0422-36-06010
(この項つづく)
MOVIE>Olo, The Boy From Tibet
【Olo. The Boy From Tibet (Part 1)】
チベット。
ドキュメンタリーで何をどう伝えるか。そのメッセージは、しかし、題材を取捨選択した瞬間、半分は伝わっていると言ってもいいかもしれない。
2002年、チベットから亡命している一人の老婆を追ったドキュメンタリー映画『モゥモ・チェンガ』を製作・発表した岩佐寿弥(いわさ・ひさや)監督が、それから10年を経て、再びチベットを題材にした新たな作品を完成させた。新作のタイトルは、『オロ(OLO. The Boy From Tibet)』。6歳のときにチベットから亡命した少年とその周辺を描いたドキュメンタリーだ。
チベットは1959年以来50年以上にわたり長く中国によって不当に支配・弾圧され、故国を追われたチベット難民はネパールやインドの難民キャンプに亡命し、そこで不本意な生活を続けている。チベットから亡命しようとする人は後を絶たず、しかし、それが途中で中国当局に発見されると、牢屋にいれられ拷問を受けたり、最悪の場合逃げるときに射殺されるなど、大変な目に逢う。チベット問題は国際社会でも大きな問題になっているが、なかなか継続的に世界的な重大関心事に至らない。
とはいうものの、インターネットがこれだけ普及し、情報が行き来するようになると、チベット解放の動きが徐々に加速しているかのようでもある。特にここ最近、チベットの人たちによる抗議の焼身自殺のニュースはひっきりなしに伝えられ、少しずつ関心を集めるようになっている。
人権が蹂躙(じゅうりん)されていること。それを声高に叫ぶのでもなく、しかし、市井(しせい)の人々の言葉できっちりと描くことによって、その弾圧の残虐さを逆に描くことにも成功している、本作はそのようなドキュメンタリーだ。大声や金きり声もない。もちろん血もでてこない。唯一映し出されるのは普通の生活から生まれる言葉と笑いと、そして真実から滲み出る涙だけ。それだけで、そこにあるメッセージはじわじわと伝わってくる。
予告編。
http://youtu.be/V18pWvUgC0M
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少年。
1959年、中国のチベット侵攻に反対運動をして中国当局から拘束され、その後拷問されながら33年投獄されていたチベットの老僧パルデン・ギャツォ(Palden Gyatso)が2008年7月来日したときに、岩佐監督は再びチベットをテーマにした映画を撮ってみたいと強く思った、という。
その後、題材とすべき少年を探し、追い、その少年が見ている日常と周辺を撮影、3年かけて作品にまとめ『オロ』を完成させた。
■ 岩佐監督2002年のドキュメンタリー映画『モゥモ・チェンガ』について
2004/07/18 (Sun)
Movie "Moumochennga" : An Old Lady Talks About The Facts Of Life
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200407/diary20040718.html
今作『オロ』の舞台はチベット亡命政府があり、多くのチベット人が住むインド北部ダラムサラのマクロード・ガンジという標高1800メートルの小さな街。主人公オロは夏休みの間だけこのマクロード・ガンジに親戚の叔父さんを訪ねやってきた。オロが夏休みの間世話になるその叔父さんは、中国に対して強硬な姿勢を取る。そのひと夏の物語を中心にオロの冬休みなども撮影されている。
映画ではひたすら彼と彼の周囲の人々の日常が描かれる。坂道の多い街を駆けるオロ。河で水遊びをするオロ。大人と話をするオロ。少年だが、大人への階段をのぼりかけているオロは、少しずつチベットのこと、中国のことを叔父さんや周辺の大人たちから学び始める。この何でも吸収するオロの純粋無垢さが、実に気持ちいい。その無邪気な生き様を見ていると、彼らが不当に弾圧され苦労を強いられているということさえ忘れさせられてしまうほどだ。
しかし、インタヴューの中で、夫が映画を撮影したために中国当局に拘束されている妻、一度目の亡命に失敗し、中国警察に捕まり、ひどい体験をした少年の話などからも、中国の不当な弾圧ぶりが淡々と語られていく。
映画の撮影開始から完成まで3年間、オロは成長する。大人の3年間と違い、子供の3年間の成長ぶりは著しい。監督は、「僕の中でオロは『チベットの少年』という枠をこえて、地球上のすべての少年を象徴するまでに変容していった」と言う。
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再会。
今回の『オロ』を製作するにあたり、岩佐監督らは、2009年11月にロケハンに行き、オロとなる少年を探し、その後2010年3月、6月、2011年1月と3回にわたり撮影を敢行した。基本的にはオロの学校が休みのときにしか撮影できないからだ。
この作品のハイライトのひとつは岩佐監督がオロを連れて、10年前に撮影したモゥモ・チェンガにまる2日かけて会いに行くところだ。
オロを撮影したマクロード・ガンジからモゥモ・チェンガが住んでいるネパールのポカラというチベット難民キャンプまでは車で2日以上かかる。監督によると、ほんとうに延々とでこぼこ道をひたすら走り、やっとの思いで到着するような場所だそうだ。そして、10年ぶりの再会だ。
チベットの難民はネパールやインドの難民キャンプにいるが、ネパールとお隣インドとの関係は良好で、インド・ネパール間は事実上パスポートなしでも出入りができるという。
岩佐監督の前作映画『モゥモ・チェンガ』は、チベットに住むごく普通の市井の人々に注目し、その中の老婆モゥモ・チェンガにフォーカスしてその姿を描いた。
一方、今回は少年オロにフォーカスして、その目を通して描いている。『オロ』と『モゥモ・チェンガ』両作品を見ると、それらがまるで車の両輪のようになって、チベットの姿がリアルに動き出す。視聴者にじっくり考えさせる「スペース」を持った作品だ。
2本を見て立体化してくる様は、まるで3D映画さながらともいえる。10歳前後のこれからの将来を担う少年と、80歳を越えるかというすべてを知り尽くした老婆との対比が実におもしろい。
この『オロ』と『モゥモ・チェンガ』を、ぜひアメリカで公開し、これらをリチャード・ギアーやジョージ・クルーニー、バーブラ・ストライサンドらに見て欲しい。そしてアメリカで1週間でもいいので公開してもらって、アカデミー外国映画部門にノミネートだ!
メインホームページ
http://www.olo-tibet.com/
6月から渋谷ユーロスペースなどで公開。全国では順次各地の単館系映画館で公開されます。詳細・予定などは上記ホームページをごらんください。
チベットの少年・製作委員会
〒180-0013 東京都武蔵野市西久保3-4-12 スコブル工房内
Eメール tibetoshonen@gmail.com
ファクス 0422-36-06010
(この項つづく)
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