ルーサーの新作、アルバム・チャートに1位初登場

生涯初。

6月10日に全米で発売されたルーサーのアルバム『ダンス・ウィズ・マイ・ファーザー』が、今週末付けの全米アルバム・チャート(ビルボード誌など)で、1位初登場する。これは彼が81年『ネヴァー・トゥ・マッチ』でソロ・デビューして以来、22年の歴史の中で、初めての快挙。これまでにルーサーのアルバムは、ベスト、クリスマス・アルバムなどを含め15作品がアルバム・チャート入りしているが、最高位は94年の『ソングス』の5位、また、もっとも売れたアルバムは89年の2枚組のベスト・アルバムで300万セット(600万枚)だった。

ニールセン・サウンドスキャンの調べによると、集計締め切りの6月15日までに同アルバムは44万2千枚売り、堂々の1位となった。なお、2位には先週1位で、今週約36万枚を売り上げたメタリカが続いている。さらに3位には同じくロックグループ、レイディオヘッドの新作が約30万枚売りランクインしている。

ルーサーのレコードは、元アリスタ・レコード社長クライヴ・デイヴィスが持つJレコードからの作品。デイヴィスは、親会社BMGからアリスタの社長を解任され、自らJレコードを始め、成功した。昨年親会社BMGは、Jレコードの株を半分買収することにより、デイヴィスを再びグループ内の統括者に戻し、RCAレーベルのヘッドに据えた。このRCA傘下にJレコードが位置する。

現在RCAからは、テレビ番組『アメリカン・アイドル』(いわゆるスター誕生的な歌手志望アーティストたちの勝ち抜き番組)優勝者もしくは出身者のクレイ・エイキン、ルーベン・スタッダードのシングルがともにシングルチャートで1位、2位に初登場し、大ヒットさせている。


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Luther As Silk, Silk As Luther

シルク。

まさにシルクのような声とはこのルーサーのこと。新作『ダンス・ウィズ・マイ・ファーザー』を繰り返し聴いている。全14曲、ゲストはフォクシー・ブラウン、ビヨンセ(デスチャ)、バスタライムス、クイーン・ラティーファなど、かなり若いヒップホップな連中を集めて、若い層の支持も集めようという狙い。

それにしても、やはり、彼の作品のクオリティーは若干の波はあれ、基本的にこの四半世紀変わらない。今回の作品は彼の入院騒ぎゆえに大量の露出があったために、一挙に大ブレイクしたが、おそらくそのプラスアルファがなくても、かなりの注目を集めただろう。アイズレーが1位初登場したように、ルーサーも1位初登場になったと思われる。それにしても、16枚目のチャート作品で初1位、しかも、初登場1位という栄誉までついた。

なにしろ、その表題曲がじつによくできている。誰にでも書けそうだが、これがなかなか書けないものなのだ。ここに到達するまでに、ルーサーは四半世紀を要しているのである。もし、これがデビューアルバムあたりで書かれ、歌われてもおそらくそれほどの感動は与えないだろう、と思う。そういう意味で、この曲にはルーサーの四半世紀のいや、もっとそれ以上の「人生のソウル」が込められていると思う。

ロバータ・フラック&ダニー・ハザウェイの名唱で知られる「ザ・クローサー・アイ・ゲット・トゥ・ユー」(78年、ソウルで1位、ポップで2位)を、デスティニー・チャイルドのビヨンセ・ノウルズとともにデュエットした。これも、キラー・カット! そういえば、たしかロバータのツアーでルーサーとマーカス・ミラーが実質的に親しくなった。それまでもスタジオなどで面識はあったが、じっくり音楽の話をするようになったのは、二人がロバータのツアーにでたとき。その出会いが『ネヴァー・トゥ・マッチ』に結集する。ルーサーは、ロバータの作品はかつて、「キリング・ミー・ソフトリー」を94年のアルバム『ソングス』で録音している。

アルバムにはもう1曲カヴァーがある。ビル・ウィザースの大ヒット曲「ラヴリー・デイ」(77年、ソウルで6位、ポップで30位)だ。バスタ・ライムスのMCに紹介されてルーサーのシルキー・ヴォイスが登場。

そして、文句なしのキャリアソング「ダンス・ウィズ・マイ・ファーザー」。歌詞がすでにネットにでていた。しばらく前にはでていなかったので、アルバム発売後、アップされたのだろう。

シルクの如くルーサーの声。それは、ルーサーの如くシルクの手触り。


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号泣。

たった4分19秒の間に、これだけの起承転結をつけるんですから、まいります。こういう物語なんですね。部分訳は以前だしましたが、これで完全版。どうぞ、ゆっくりルーサーの世界を堪能してください。しかし、これを聴いた世の母親は、いや、父親もみんな涙するんじゃないか。お涙頂戴もここまで行けば、脱帽です。7歳くらいまでの記憶だけで、これだけの物語を書くのですから、ルーサー、恐るべきストーリー・テラーです。こんな曲、一生に一曲でも書ければ、ソングライター冥利につきます。

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「ダンス・ウィズ・マイ・ファーザー」訳詞完全版

「それは、僕が子供だった頃、人生がすべての純真さを失う前のことだった。父は僕を高く持ち上げてくれた。父は母や僕と一緒にダンスを踊ってくれた。父は寝付くまで、僕をあやしてくれ、そして2階の寝室に連れてってくれた。そんな時確信したものだ。僕は父に愛されている、って。

もう一度チャンスがあるなら、一緒に父と散歩をしたり、踊ってみたい。僕は決して終わることがない歌をかけよう。どれほど、僕が父ともう一度踊ってみたいと思っていることか。

母の言い付けに僕が納得できない時、僕は父のところに助けを求めに走ったものだ。父は僕を笑わせ、慰め、でも、結局母の言い付けたことを僕にやらせてしまった。

そんな夜遅く僕が寝ていると、父は枕もとにそっと1ドル札を忍ばせてくれた。そんな父がいなくなるなんて、夢にも思わなかった。

最後にもう一度父をどこからかそっと見ることができるなら、最後のダンスを一緒に踊れるなら、僕は決して終わることがない歌をかけよう。なぜって、僕はもう一度、どうしても父と一緒にダンスを踊りたいから。

ときどき、母がドアの向こうで父を思い出してすすり泣いているのを聴いた。僕はそんな母のために、祈った。

僕は無理なお祈りをしたかもしれない。『彼女が唯一愛した人をもう一度生き返らせて』っていうお祈りだからね。もちろん、神様、あなたはそんなことは普通してくれないってわかってる。でも、母はものすごくもう一度父とダンスを踊りたいんだ。

僕が寝るとき、これこそが僕が夢見る夢なんだ。」


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いやあ、いい歌詞だ。いい物語です。特に気に入ったラインは、

If I could steal one final glance
One final step, one final dance with him

というところ。glance は「ちらりと見る; ざっと見る 」という意味。父の姿をたくさん見るのではなく、ちらっとでいいから、見たい、ということになる。しかも、steal one final glance。
これは、どこからか覗き見するニュアンス。きっとルーサーが天国にいる父親をちらっとでもいいから、見たい、最後の一度でいいから、っていうニュアンスですね。see とかwatchではなく、steal〜glanceっていうところが繊細なルーサーらしい。

しかも、その後に、One final step, one final danceとone finalでつなげる。これはもう、作詞の技術ですね。職人芸。脱帽です。

そして、最後にちゃんとオチがある。

Every night I fall asleep
And this is all I ever dream

母親をもう一度、父に会わせたい、父親とダンスを踊らせたい、というルーサーの夢。それが、いつも自分が寝るときの夢なわけです。ルーサーのママ、メアリー・ヴァンドロスさんがこれを聴かされて泣かないわけはありません。号泣する姿、目に浮かびます。

ルーサーのキャリア・ソング、堂々ここにあり。


土曜夜。

シンディー・ロウパーっていうと、80年代です。80年代っていうと、洋楽ファンからすると、『ベストヒットUSA』です。小林克也さんです。これは、洋楽のプロモビデオを流すテレビ番組で80年4月からテレビ朝日系列で毎週土曜日11時過ぎから始まりました。なんとアメリカで音楽専門チャンネルMTVが放送を開始するのが81年8月ですから、その前からプロモーション用のビデオクリップをかけていたことになります。はやい。小林克也さんはその番組の司会者でした。

でも、その頃はまだまだプロモビデオの数もなかったので、番組でベスト10を紹介するときも、ビデオがないものがけっこうあったんですね。で、番組はどうしたかというと、レコードかけて、ダンサーたちがその曲にあわせてダンスしている適当な映像を流したわけです。『ベスト・ヒット』自体がアメリカの音楽番組『ソリッド・ゴールド』からそんな映像をもらって作っていたので、それができたわけです。

今でこそ、ベスト10にはいるような曲にはすべてプロモビデオがありますが、その頃は全部が全部についていたわけではないんですね。隔世の感があります。

で、やはり80年代のアーティストって、日本ではこの『ベストヒットUSA』をきっかけにブレイクしたアーティストが多いですよね。『ベストヒット』を思い出してしまうアーティストというのは確かにいて、このシンディー・ロウパーなんかそんなアーティストのひとりです。


解釈力。

このところ、と言っても先週からですが、日曜は午前11時40分からの日本テレビのバカ騒ぎ番組をちらっと見て、2時から『サンデイ・ソングブック』を聴き、そして、4時半の男にのぞむ、というのが、パターンになっているわけですが。

先週と今週の山下達郎さんのその番組『サンデイ・ソングブック』は2003年3月21日(金=祝)に東京FMホールで行われた番組リスナー招待のアコースティック・ライヴの模様を放送していました。先週書こうと思っていたのですが、彼は「ホワッツ・ゴーイング・オン」を歌うんですね。よく歌っていると言ってました。知らなかった。

ちょうどその前日開戦になったということで、急遽これを歌うことにした、とコメントしていました。う〜む、このセンスはさすがですね。

この日のバンドはギター、ベース、キーボードだけのアコースティックバンド。達郎氏は、「普通はこの編成でやると、フォーク調になってしまいますが(といって、若干いかにもフォーク調の曲をほんの瞬間やる)、われわれがやると、見事なロックンロールになります」と言って一曲やったんですね。

たしかに、フォークではなく、ロックンロール。結局、音楽は楽曲じゃなくて、やる人、演奏家、歌手の心構えなんですよね。ソウルの名曲もカントリーの名歌手が歌えば、カントリーの名曲になります。フォークだって、ソウルにもなるし、ロックにもなる。

そして、その伝でいけば、この珠玉のソウルソングである「ホワッツ・ゴーイング・オン」が彼の手にかかると、見事なまでに達郎節のポップソングに生まれ変わります。これをして、解釈というのでしょう。そして、解釈力のあるミュージシャンは、概して非常にすぐれたミュージシャンです。

6月22日のオンエアでは、スカイライナーズの「シンス・アイ・ドント・ハヴ・ユー」を歌ってました。これも、ポップソングに変身です。



キャンベル・ブラザース来日

神聖。

セイクリッド・スティールSacred Steelというのは、「聖なる(神聖なる)ギター」と呼ばれるのですが、ブルース、ゴスペルをフュージョンさせたようなサウンドを聞かせるキャンベル・ブラザースが来日します。

http://www.campbellbrothers.com/

http://www.allmusic.com/cg/amg.dll?p=amg&;uid=CASS80305190557&sql=Bjx6htr5qkl6x

一曲だけ聞きましたが、実に迫力があるゴスペル、ブラック・ミュージックでした。彼らの特色はスティール・ギターを中心に編成されているところ。なかなか見る機会はないようです。

彼らのようなグループは、絶対にCDよりライヴでしょうね。ライヴでその魅力がでてくるアーティストでしょう。

来日公演は次の通り。

タイトル『ブルース・パラダイス2003』

日時 2003年7月14日(月) 開場6時、開演6時半
会場 芝ABC会館ホール 前売り6000円、当日6500円(全席指定)
出演 キャンベル・ブラザース、鬼ころし、レイニーズ・バンド
問い合わせ チョコレートクリーム・プロダクション 03-3487-5442
http://www.chocolatecream.co.jp/

なお、鬼ころしは、横浜を中心に活躍するグループ、またレイニーズ・バンドはカズ南沢、レイニー加藤、ボブ斎藤、エルトン永田、ジュニア豊田、三松亜美、染谷由紀乃らヴェテランで結成されたバンドです。

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Nouveau Zydeco: Chris Ardoin Coming To Japan, Also

ザディコのクリス・アルドワンも来日

ザディコ。

古くからルイジアナ州ニューオーリンズを中心に人気のザディコ・ミュージックのアーティスト、クリス・アルドワンも来日します。

http://www.allmusic.com/cg/amg.dll?p=amg&;uid=CASS80305190557&sql=B23jeear14xf7

http://www.allmusic.com/cg/amg.dll?p=amg&;uid=CASS80305190557&sql=B0u1gtq3zbu48

ザディコは、ニューオーリンズのダンス・ミュージック。そのルーツは、フランス系移民の人々の間で受け継がれてきたケイジャン・ミュージックです。このクリス・アルドワンは、1981年生まれで、すでにザディコでも第三世代になる新世代のミュージシャン。ソロ名義、グループ名義で数枚のアルバムを発表、地元ではかなり人気とのこと。ザディコでもヌーヴォー・ザディコと呼ばれています。

タイトル 『ジャズ・イン・トウキョウ・プレゼンツ・ジャズ・イン・虎ノ門VOL.9』

出演 クリス・アルドワン&ダブル・クラッチン
日時 2003年7月22日(火)、23日(水)
会場 虎ノ門JT本社 2階アフィニスホール
料金 座席 3000円(当日3300円)、立ち見2500円(当日2800円)
問い合わせ チョコレートクリーム・プロダクション 03-3487-5442
http://www.chocolatecream.co.jp/

なお、7月24日は「新橋こいち祭」に参加。新橋駅前SL広場ステージでも演奏予定。時間は未定。無料。

ともに、チョコレートクリームのウエッブから優先予約があります。

クルセイダーズ来日決定。

50周年。

クルセイダーズのブルーノート・ツアーが10月に決定した。メンバーは、ジョー・サンプル、ウィルトン・フェルダーのオリジナル・メンバーに加え、ドラムには新人のケンドリック・スコットが参加。名古屋、大阪、東京、福岡の各ブルーノートに登場する。まもなく正式に発表される。

他のメンバーは、ギターにレイ・パーカー・ジュニア、トロンボーンにスティーヴ・バクスター、ベースにフレディー・ワシントン。ゲスト・ヴォーカリストは現在のところいない模様。クルセイダーズとしての来日は92年8月のマウントフジ・ジャズ・フェスティヴァル以来。

公演日程は次の通り。

2003年
9/29(月)〜10/1(水):名古屋ブルーノート 052-961-6311
10/2(木)〜4(土):大阪ブルーノート  06-6342-7722
10/6(月)〜11(土):東京ブルーノート 03-5485-0088
10/13(月)〜15(水):福岡ブルーノート 092-715-6666

問い合わせは正式発表後に各ブルーノートへ。

クルセイダーズは、昨年クルセイダーズとして11年ぶりの新作『ルーラル・リニューアル』を、オリジナル・メンバーのうちの3人(ジョー、ウィルトン、スティックス・フーパー)で発表している。

オリジナル・ドラマーのスティックス・フーパーの代わりを務めるのはバークリー音楽院出身の新進気鋭のドラマー、ケンドリック・スコット。テキサス州ヒューストン出身で、ジョーやウィルトンなどとも同郷にあたる。また、ヤマハの契約ドラマーで、数多くのセッションを経験、神戸のジャズ祭で来日もしたことがある。若き血をいれたヴェテラン、クルセイダーズがどのようなサウンドを見せるのか注目される。

クルセイダーズは、ジョー、スティックス、ウィルトンにウェイン・ヘンダーソンで1953年にテキサス州ヒューストンで母体が結成された。よって、今年で50周年ということにもなる。61年ジャズ・クルセイダーズとしてデビュー、71年にジャズが取れ、シンプルにクルセイダーズとなってから急激に人気を集めるようになった。79年、ヴォーカリスト、ランディー・クロフォードを大胆に起用した『ストリート・ライフ』が大ヒットになり、フージョン界最大の人気グループになった。その後、メンバーのソロ活動なども活発化、クルセイダーズとしては91年の『ヒーリング・ザ・ウーンズ』が最後のアルバムだったが、2002年前述の新作がでた。



邦題値千金。

ナット・キング・コールの89年に東芝からでていた2枚組40曲入りのベストCDを入手しました。そうしたら、ここに先日ウッチーさんが話題にあげてくれた「月光値千金」(5文字・11音)がはいっていました。キャッチーでいい曲ですねえ。

「モナ・リザ」「トゥ・ヤング」「枯葉」などなどスタンダードばかり。で、何を書くかと言えば、この頃の邦題についてです。1940年代から60年代にかけての作品群の邦題は一ひねりしつつも、その曲のエッセンスをついています。

みんな邦題がいいんですよねえ。たとえば、Red Sails In The Sunset 夕陽に輝く赤いセール=「夕陽に赤い帆」(6文字)。イメージがすぐにわきあがります。あるいは、これは映画のタイトルをそのまま使っていますが、Love Is A Many Splendored Thing 愛とはたくさんのすばらしいもの=「慕情」(2文字)。慕情とは、慕わしく思う気持ちです。昔の人はセンスありましたねえ。っていうか、ヴォキャブラリーがあったんでしょうね。

An Affair To Remember 最近だったら「思い出のラヴアフェア」といった程度の邦題か。これが「過ぎし日の恋」(6文字)。

これもいいですよ。Oh, How I Miss You Tonight 「オ〜、どれほど今宵(こよい)君のことを思うか」が直訳。これが「君しのぶ宵」(5文字)だ! 

次のもうまい。Those Lazy-Hazy-Crazy-Days Of Summer。まあ直訳すれば、「けだるく、どんよりした、クレイジーな夏の日々」といったところでしょうね。これを「暑い夏をぶっとばせ」(9文字)とするわけだ。

月曜日にNHKの番組に字幕翻訳家の戸田奈津子さんがでていて、字幕の話をいろいろしていましたが、セリフ1秒につき3−4文字しかはいらない。だから、日本語がものすごくむずかしい、ということを力説されておりました。

最近、こいつはうまい、という曲の邦題があんまりありませんが、やはり、ずばっとくる邦題は覚えますよね。

そして、ナット・キング・コール全40曲中、ナンバーワン邦題賞は、文句なく「月光値千金」です。原題は、Get Out And Get Under The Moon。日本人のDJは、誰もこんなタイトル読みません。(笑) せいぜい直訳だと、「飛び出せ、月光の元に」といったところかな。それも悪くないか。でも、たった5文字のほうが勝ちですねえ。

値千金の邦題です。


宿題。

「ソウルマン」ガッツTKBショウのライヴが渋谷のAX(アックス)であるというので、友人MとKとAX入口で待ち合わせる。7時の待ち合わせに20分くらいあったのと、ランチをまだ食べていなかったので、数年ぶりにチャーリーズハウスでラーメンを食べることにした。

なかなか車をとめるところがなかったので、一度店の前を通過。すると、店の中には客が二人しかいなかった。一時期は並んでたのにねえ、と思いつつ、なんとか車を止めて店に向かう。扉を押し中に入ると・・・。そこで、僕が見たものは! (モノクロ映像の反転) な、な、なんと、その待ち合わせのMとKが一足先に、ラーメンなどを食べているではないか。二人の客は彼らだった。しかも老酒、ビールなどの飲みかけもある。やられた。

「しかし、この渋谷に何千軒とある店で、どうして、同じ店に来るかね(笑)」とM。Kは初めてというので、Mと「チャーリーズハウスといえばねえ、一世を風靡した店だよねえ。じゃあ、これからも渋谷にお寄りの際はぜひ、こちらで食べてからライヴに」とほとんど宣伝部長みたいな言い方をするも、「一世を風靡した」などと過去形で語っているときに、店の人の視線が一瞬気になった。すいません。チャーリーズハウスは1975年オープン、28年この地でラーメンなどを出している店だ。とりいそぎ、パーコーメンみたいのを食べて、AXに向かう。

と、ところが、AXに来たがなんだか様子が違う。客層が違うのだ。改めて、案内のファクスをよ〜〜く見ると、そう、ガッツのライヴはおとなりのBOXX(ボックス)だったのである。なんとなく、AXって聞いていたような気がしたんだけど。AXから雨の中をとぼとぼBOXXまで歩く。Kも、MもAXだと思っていたので、全員、すっかり意気消沈。

だが、会場に入ると小さな音で、スピナーズの曲が流れてきた。思わず、「は〜い、75年のスピナーズのスマッシュ・ヒット、『ゲームス・ピープル・プレイ』」などとMとKに解説して失笑を買うも、徐々に意気衝天。

ライヴはほぼ時間通りにスタート。オンステージにガッツを含め8人。立派なバンドだ。感じたことはたくさんあった。なにより、彼の音楽は、ガッツの声が抜群にいいということだ。この場合バンドの仕事は、そのガッツの声の良さをいかに引き立たせるか、どうやったら彼の声の魅力が輝くかという点に集中することが大事になる。

もちろんバンドによっては、バンドサウンドを重視して、声をバンドの中の一部、楽器の一部として捉える方法もあるが、この場合はまず、なにをおいてもガッツの声ありき、ということだ。

バンドは、日本人のバンドとしては、タイトでかっこいい。おそらく、このバンドなら、CDよりもライヴ・パフォーマンスのほうが、かっこいいだろう。ガッツはCDよりも、ライヴの人ではないかと感じた。フルのライヴは2月以来とのことだったが、このバンドで毎週あるいは毎日でも箱バンド的にやっていたら、めちゃくちゃ強力無比になるだろう。ついでに、ブラスセクションかなんか入れた日には、かなりファンキーなバンドになれると思う。今はガッツの声がソウルフルなのに、バンドの音は、うまいだけにかなりクリーンだ。

アース・ウィンド&ファイアーのライヴ、ジェームス・ブラウンのライヴ、マイケル・ジャクソンのライヴなんかをもっと研究して、ショウアップしたライヴにしたら、より楽しくなること間違いない。まだ、動きがないから、次はコレオグラフィーでもつけてもらいましょう。(笑) 

一番印象に残った曲はアンコールで歌われたカーティス・メイフィールドの「ピープル・ゲット・レディー」。前回青山で聴いたときはアコースティック・ヴァージョンだったが、この日はバンド・ヴァージョン。これは、さすがに歌いこんでいるだけあって、聴き応えある。ただし、これはグッドニュースとバッドニュースでもある。バッドニュースは、これが一番ということはオリジナルはどうなんだ、ということになるからだ。ぜひ、オリジナルでこの「ピープル・ゲット・レディー」を超える曲を作って欲しい。いい楽曲が生まれ、タイアップでもつけば、ブレイクはすぐそこだ。それが最大の宿題だ。

といったようなことを、ライヴを見ながら考えていた。そしたら、渋い顔をしていたのかもしれない。ライヴ後、ガッツに言われた。「渋い顔してましたねえ。見えましたよ。楽しくないのかと思いました」 「いやいやいやいや、エンジョイしましたよ!」と強く否定した。アンコールを含めて1時間57分。このバンドでジェームス・ブラウンみたいに年間150本くらいやってみたら、どうでしょう。(笑) 

【2003年6月26日(木)渋谷BOXX】

門前仲町。

昨日の続き。ガッツのライヴが終わり、Kは帰り、Mとともに門前仲町に新しくできたソウルバー「FUNX(ファンクス)」に向かう。6月16日オープンなので、まだ10日あまり。20代前半の若者3人が共同で始めた12坪の店だ。

Mはオープンまもなく一度来ているが、ぐでんぐでんに酔っ払っていてあんまり場所を覚えていない、という。しかし、僕は事前に住所をきいていたので、場所のめぼしはつけていた。Mも、近くまで来たら、すぐにわかった。一本裏道だが、一度来れば、後は簡単だ。

永代通りからその店に行く途中、「やさしいママがおもてなし、生ビール400円」という張り紙のあるスナック店の横を通過。これはなんだ? 「生ビール400円でも、テーブルチャージ3万円くらい取られたりして」などと軽口をたたきつつ、ファンクスに到着。

もともと白金ダンステリアでアルバイトをしていた川端君が仲間と始めた。ターンテーブル2台、CDなし。約15席のお店。かける音楽は60年代から現在までのソウル、R&B中心。アナログをとりあえず1000枚程度そろえた、という。

内装は、コンクリート打ちっぱなしで実にかっこいい。と思いきや、よ〜〜くみると、打ちっぱなしに見える壁紙であった。M曰く「ああ、これね、触んなきゃ、わかんないよ。僕も前ラーメン屋やってたとき、木目の壁紙使ったんだけどさ、木の節みたいな穴までちゃんとできてるんだ。でこぼこついてさ。そしたら、客がそこをごりごりほじくりやがってさ。ほじくるな、っつうの」(笑) みんなも、コンクリートの打ちっぱなしだと思って、卵とか投げつけないでね。(誰もそんなことは、しないか) 意外ときゃしゃです。

川端君は、東西線沿線でやりたかった、という。おそらく、門前仲町初のソウルバーでしょう。ここのすごいところは、営業時間。夜7時から、な、な、なんと翌日朝10時まで! アフターアワーズもおまかせ、って感じですね。ソウル・モーニング食べて、出社だ! 

門前仲町駅から徒歩2分。門前仲町の交差点から永代通りを銀座と逆のほうに右側を歩き、最初の信号を右折、すぐに最初の角を左折、まもなく行った右側。看板がでている。永代通りと並行に位置する、車が通れない細い路地にある。

FUNX

住所 東京都江東区富岡1-4-13 1F
電話 03-3642-2280
休業 基本的になし。
営業時間 午後7時から翌午前10時。
チャージ 男性 500円、女性 なし。
ドリンク 600円〜
フード チャーハン、パスタなど 900円〜
開店 2003年6月16日(月)



純正。

救急車が前の道をサイレンを鳴らして走れば、彼はそれまで弾いていたピアノの曲もその音に瞬時にあわせて演奏する。サイレンの音階がピアノによる音階に瞬時に変化。変幻自在、ピアノの魔術師、深町純の純正・純製・即興ライヴ。

そんな即興家の彼がこのところ毎月1曲、事前に譜面に書いた、作曲してきた作品を演奏しています。28日で10曲目。その名は「リヴォーカブル・インプロヴァイズド・エレジー revocable improvised elegy 」 意味は「なくてもいい即興のエレジー(哀歌)」。

「即興の曲と譜面に書かれた曲をやるときは、確かに何か違う。僕もよくわからないんだけど」と彼は言います。来月か再来月、これらをまとめて演奏するかもしれない、とのことです。

さて、深町純さんのライヴは、ときどき、飛び入りゲストがやってきて何かをやる。彼の即興にあわせて何かを演奏したり、歌ったりすることもあれば、ある程度打ち合わせたり、譜面を用意したりして、演奏したりすることもある。

昨日は、なんとヴォイス・パーカッションとファルセット・シンガーの二人がやってきた。パーカッション担当がカズくん、もうひとり、ファルセットがしのぶくん。彼らはワーナーからCDをだしているベイビーブーという6人組ヴォーカル・グループのうちの二人だ。

まず、深町・ピアノとカズ・パーカッションで、しばしのりのいい即興演奏。そして、続いてしのぶ・ファルセットをいれ3人で、なんと、スタイリスティックスの72年の大ヒット「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」を歌った。深町さんのこのアートカフェライヴでソウルのカヴァーをやったのは、30回の歴史の中で初めてではないか。

日本人歌手でファルセットを歌う人をあまり知らないので、非常に興味深かった。深町さんは、彼らへの拍手が自分への拍手よりも大きかったので、不満そうだった。(笑) 

僕はベイビーブーというグループを知らなかったので、ライヴが終わった後少し話を聞いた。グループは96年9月にリーダーのカズくんが神戸で結成。2000年9月までに現在の6人のラインアップになった、という。インディでシングルを出した後、2002年メジャーのワーナーに移籍。2002年8月にファーストアルバムを出し、2003年7月にはワーナーから5枚目のマキシシングルが出る。基本的にはJポップというジャンルなのかな。

ファルセットを歌ったしのぶくんはテイク6が大好きだと言うので、8月にマウントフジジャズフェスで彼らがマーカスミラー、レイラハザウエイと一緒にやってくることを伝えた。

これまでに出したシングルには必ず一曲カヴァーをいれるということで、次の新曲シングルには「愛のコリーダ」をアカペラでいれた。ちょうどそのサンプルをもらったので早速うちで聴いたら、いやいや、ルイスジョンソンのベースソロのところをカズくんがやっていた。受けた。他にはブレッドの「イフ」、シンディー・ロウパーの「タイム・アフター・タイム」などをカヴァーしている。

広く告知はしていないそうですが、ベイビーブルーが6月30日月曜日午後8時過ぎから渋谷ハチコー前でストリート・ライヴをやるという。ちょっと覗いてみようかな。

そして、深町純さんは、7月8日(火)に横浜モーションブルーでライヴをやります。午後7時と9時半。入れ替えなし。チャージ3000円。問い合わせはモーションブルー 045-226-1919。モーションブルーでもトーク爆発でしょうか。(笑) 
(2003年6月28日・深町純ライヴ・恵比寿アートカフェ)

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