グルーヴ感。

友人H氏に誘われ津軽三味線のライヴへ。場所は代官山のレストラン、アソー(ASO)。ちらっと聞いていたのは、イタ飯を食べながら、三味線のライヴを見る、という話だったが、それは違って、イタリアンレストランのイヴェントができる広い部屋でライヴを見るというもの。中庭でシャンパーンが振舞われ、その後、ライヴ。津軽三味線を見せたのは、佐藤道弘(さとうみちひろ)・佐藤通芳(さとうみちよし)の親子。さらに、タブラというインドのパーカッションを演奏する吉見征樹(よしみまさき)、尺八の田辺頌山(たなべしょうざん)が加わり4人でのパフォーマンスを見せる。

僕は個人的に、日本の楽器でいかにグルーヴ感を出せるか、というのをひとつのテーマというか、そういう視点で見ているのだが、この三味線というのはまえからちょっとおもしろいな、とは思っていた。というのは、この日も佐藤親子がデュオで激しく演奏する時など、演奏方法などは、ベース奏者のチョッパー奏法とけっこう似ているからだ。こういうチョッパー風の三味線を見ると、なんとか黒いグルーヴ感とうまく融合できないだろうかと思う。

だが、一方でどうしても三味線という楽器の性質上、さらに音質上の問題で、なかなかボトム(低音)が効かないために、ファンキーな味わいがだしにくいというのも事実。でも、あれだけ激しく演奏ができるのだから、きっと何らかの道があると思う。

しばらく前に、ボビー・マクファーリンと三味線のコラボレーションがあったが、あれはなかなかマッチしていなかったと感じた。http://diarynote.jp/d/32970/20040204.html

たぶん、演奏者がファンキーな感覚とか、グルーヴの感覚というのを体で知ると、ひょっとしてそういう雰囲気が醸し出せるのかもしれない。一度、三味線奏者の人とグルーヴ感についてゆっくりお話してみたい。三味線のグルーヴ化というテーマで。(笑) 

さて、三味線の佐藤氏、尺八の田辺氏は、自らの楽器について簡単に説明をし、どうするとどういう音が出るなどのレクチャーもされた。こういうのは、カルチャー講座っぽくて好き。僕自身、楽器は何でも好きで、それらがどうやって音を出すかということにすごく興味があるので、そういうことを教えてくれるのは嬉しい。

時代劇などで、ふ〜〜と吹くのを「むらいき」というそうで、それを現実に再現されると、やはりそこに髷(まげ)のサムライが刀を刺して立っているような感覚になる。また、「浮る」と書いて「かる」と読み、「沈る」と書いて「める」と読むそうだ。これはそれぞれ、あごをあげる仕草、あごを下げる仕草のことらしい。その上げ下げができないと一人前にはなれない、という。確かに尺八奏者の人は、上手に頭を上下に振っている。

佐藤氏はニューヨークなどにもいたそうで、その時代に書いた曲も披露した。「ニューヨーク時代にジョンさんという人がいまして、その人はとても日本人の女性が大好きだったんですね。あるとき、彼が女性に振られて落ち込んでるときがありまして。その彼のために書いた曲です。そこでタイトルが、『ジョン、空元気』」 会場が爆笑した。

また非常に興味深かったのが、タブラという楽器。吉見氏はすでに20年近くこれを演奏しているそうで、途中自身のスキャットとのかけあいがなかなかおもしろかった。これはかなりグルーヴ感がでる楽器だ。またパーカッションながら、うまく音階を披露していた。

(2004年4月20日火曜=代官山ASO=佐藤道弘、佐藤通芳、田辺頌山、吉見征樹ライヴ)

Soul Searchin Talking Vol.2

2004年4月22日
本日。

いよいよ今日です。第二回『ソウル・サーチン・トーキング』。さきほど、ケイリブが歌っているピアノバーに行って、少し最終打ち合わせをし、ちょうど何曲か歌ってくれました。あっと驚くような選曲もあります。まだまだ本人曰く、ジャムセッションみたいだな、という部分もありますが、今夜から明日にかけて最終的に煮詰めるそうです。

第一回が11月だったので、5ヶ月ぶりですか。しかし、あっという間ですね。小冊子もできました。映画『永遠のモータウン』の試写会のプレゼントもあります。ラフな進行表もできました。ケイリブもトーキングセッションに加わりたいとのことで、急遽、通訳の方をお願いしました。その方は、かつてスティーヴィーの通訳もしたことがあるということです。最適ですね! いやあ、しかし、密度はかなり濃いです。ぜひお楽しみください。

新譜はあいかわらず6月発売ですが、かなり信憑性は高まっているようです。先日、アメリカではオプラ・ウィンフリーのインタヴューに答えています。この内容については、簡単にご紹介します。フランク・マッコムのメッセージもビデオで紹介します。彼が気に入っているスティーヴィーの曲は一体なんなのか。

お会いできる方、楽しみにしています。また、残念ながら来られない方、本ウェッブで、詳細をレポートしますのでそれをご覧ください。

http://diarynote.jp/d/32970/20040315.html
感謝。

いやあ、ケイリブ、よかった。(笑) 今までケイリブの歌ってピアノバーでしか聴いたことなかったんです。もちろんそれもそれなりによかったのですが、今日のはかなり本気だったですね! 僕が一番思ったのは、このライヴをスティーヴィー本人に見せたかったということ。次に、彼が歌う曲の歌詞をみんな覚えていられればなあ、ということ。いやあ、こうなると一緒に歌いたくなりますねえ。スティーヴィーの曲は。(笑) 

セット1で、彼が「ドンチュー・ウォーリー・バウト・ア・シング(くよくよするな)」でオーディエンスにサビのところを歌うように促したら、みんな歌うんですよねえ。まあ、スティーヴィー好きが集まってるんだから、当たり前だ、と言われればそれまでなんですが、感激しました。他にも、「テル・ミー・サムシング・グッド」のところでも、大合唱になったりして。

前日、ケイが愛宕で歌っているところに最終打ち合わせを兼ねて行ったんですが、ちょっとナーヴァスになっていたようでした。というのも、いくつかの曲がまだ完全にマスターできていなかったんですね。で、僕は彼に言いました。「Everybody will love you, definitely! (みんな、絶対君のこと、気に入るよ)」と。

セット2のトップは、スティーヴィーが今回の来日で一度だけ披露した新曲「アイ・キャント・イマジン・ラヴ・ウィズアウト・ユー」でした。これは、スティーヴィーの大ファンである原口さんのリクエストでもありました。曲紹介の時に、それを言おうと思ってメモしていたんですが、つい忘れてしまいました。すいません。(笑) ピアノでぴったりですね。

セット2のスティーヴィーが他のアーティストに書いた作品集は、これもよかった。これはケイリブのアイデアで、候補をたくさんだして彼が選んでいます。「ユー・アー・マイ・ヘヴン」、いいですね。そして、クインシー・ジョーンズのアルバム『愛のコリーダ』にはいってる「ベッチャ・ウドント・ハート・ミー」あたりを選んでくるところはさすが。しかも、オリジナルはベースの効いてるグルーヴ感のある曲ですが、彼はこれをピアノ一本でいいのりでやりました。

全曲ピアノだけで、アップテンポ、ミディアム、そして、スローまで。いやあ、よくこなしました、23曲。そして、アンコール3曲もやってくれました。彼は途中で「なぜ、自分が『アイ・ジャスト・コールド・トゥ・セイ・アイ・ラヴ・ユー』が嫌いなのか」をひじょうにおもしろく解説してくれました。かなり受けてました。

ケイリブは、かなり体力を消耗したようです。あとで言ってました。「いやあ、一週間くらい前から、ジムに通って、もっと体力をつけておくべきだった(笑)」 なるほど。しかし、内田さん、島田さんも、僕もいつのまにかただのリスナーになってましたよ。そして、彼が何かを歌い始めると客席から「ウーー」とか、「オオッ」とか声がかかるのを見ていると、いやあ、この企画やってよかったなと思いました。

超満員のご来場のお客様、ありがとうございました。入口で入場に若干時間がかかってしまったお客様、失礼いたしました。

また、ころあいを見て、なにかやってみましょう。

Setlist

Part One

SET ONE

Love’s In Need Of Love Today
All I Do
Creepin’
Don’t You Worry ’Bout A Thing
Signed, Sealed, Delivered

SET TWO

I Can’t Imagine Love Without You
Too Shy To Say

I Can’t Help It (Michael Jackson)
You Are My Heaven (Roberta & Donny)
Betcha Wouldn’t Hurt Me (Quincy Jones)
Till You Come Back To Me (Aretha Franklin)
It’s A Shame (Spinners)
Tell Me Something Good (Rufus)

+++++++++++++++++++++

Part Two

SET THREE

Lately
Send One Your Love
Secret Life Of Plants
All In Love Is Fair
If It’s Magic

SET FOUR

If You Really Love Me
Summer Soft
Ribbon In The Sky
Ordinary Pain
Superwoman

ENCORE

I Wish
Superstition

You Are The Sunshine Of My Life

(2004年4月22日木曜・ソウル・サーチン・トーキング=目黒楽屋[らくや])
相性。

たくさんのメッセージ、ありがとうございます。BBSへの書き込みのほかにも直接のメールなどもいただいています。改めてありがとうございます。

先日のフランク・マッコムのインタヴューの話が途中なので、続きを少し書いておきましょう。僕が、「あなたが音楽で最後に泣いたのはいつのことですか」という質問をしたところ、フランクはしばらく考えて、こう答えたのです。

「僕が曲を聴いて最後に泣いたのは、一月ほど前のことだった。よく覚えている。その時、聴いた曲というのは「サマー・ソフト」、スティーヴィー・ワンダーだ」 よりによって、「サマー・ソフト」を選んできたので僕は超びっくりしました。

「あれは76年のこと。僕の母親が新しい兄弟を生むために入院していた。母親は姉(フランクのおばさんにあたる)に、僕たちの面倒をみるように言った。そして、僕たちをなつかせるためにレコードのかけ方をおばに教えておいたんだ。その時かかっていたのが、スティーヴィー・ワンダーのアルバム『キー・オブ・ライフ』のディスク1のサイド2だった。『アイ・ウィッシュ』から始まって、『サマー・ソフト』が4曲目にかかる。おばさんは、その面ばかり朝から晩までかけていた。で、その曲を聴くと、母親が苦労していたあの時のことが思い出されるんだ。で、この曲が流れて来た時、思わず泣いてしまった。そう、この曲は僕を76年のあの時に連れてってくれるんだ」

というわけで、僕は急遽、この話を『ソウル・サーチン・トーキン』でしようと考えたのですが、それだけでなく、何かビデオメッセージでももらおうと思ったのです。そして、収録したメッセージと、このインタヴューの部分をご紹介したわけです。

それにしても、スティーヴィーの曲が、なんらかの思い出になっている人って本当に多いですね。それだけ、彼の作品は思い出と相性がいいのでしょう。
内幕。

さらに、「ソウル・サーチン・トーキング」ネタが続きます。実際、振り返ってみるとパート1が80分、パート2も95分を越えていました。これは、予定以上の長さになってしまいました。まあ、最初の読みでは伸びて70分ずつ、マックス80分と思ってましたから。しかし、こっちはやってるほうなので、時間は見てはやってるんですが、ケイリブのライヴを見てるときは完璧に観客になって、時間が経つのを忘れてしまいました。(笑) 当初の予定では、お店側の希望は、60分、休憩30分、後半60分。入れ替えをしないので、1部と2部は違うものを、ということでした。最後のアンコール「ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ」が終わり、最後の挨拶が終了したのが、11時15分でした。中には終電に間に合わず、帰られてしまった方もいらっしゃったようです。すいません。まあ、この辺のタイムキーピングは反省点として、次回以降の課題とさせていただきます。(笑)

各セットリストについての解説も、かなり実際ははしょった感じになって、僕としては消化不良なんですが、結果的には時間がないということもあって、しかたないかもしれません。その部分はこの日記でフォローしましょう。

彼がやった4セットとも、本当によかったですが、まずセット3について何か書きたいです。これはセット3に限らずですが、やはりスティーヴィーの曲はいい曲が多い。だから、2時間近くやっても、こちらは飽きないんですね。当たり前のことですが、やはりとてつもなくすごいことです。さきほど、今回の26曲にはいっていない曲でピアノでできそうな曲をリストアップしていたんですが、まだ20曲以上ありますねえ。「アイ・ジャスト・コールド・トゥ・セイ・アイ・ラヴ・ユー(邦題、心の愛)」を除いても。(笑) これは、すごいなあ。

セット3、まずケイリブが少しアドリブっぽくピアノを弾いて、そこからおもむろに「レイトリー」のイントロに進みました。うまい! つかむ! 途中のところで、ブレイクをはさむと、観客から掛け声が。いやあ、いいですねえ、こういう雰囲気。たまりません。スティーヴィーの曲は、とても音域が広く、特に男性歌手は高域のところを歌うのが大変なようです。で、ケイリブももっとも張り上げるところで、一息深呼吸をいれたわけです。そこで、「Take your time, it’s the best part!」の声。ケイリブ、観客側を見て「Not for me!」 そして、爆笑。深呼吸してやっとの思い出歌い上げる最高のパート。観客からやんやの声援が。

映画『シークレット・ライフ・オブ・プランツ』のサントラとしてリリースされた同名のアルバムから、「センド・ワン・ユア・ラヴ」とタイトル曲と、しっとりした曲が続き、さらにそこから『インナーヴィジョンズ』からの「オール・イン・ラヴ・イズ・フェア」への流れは見事でした。

僕は観客のみなさんの反応もすばらしかったと思います。曲の歌い始めでの歓声、サビのところでの掛け声、終った時の拍手。こういうリアクションだとシンガーもどんどん乗ってきます。

そして、曲が終わり、ケイが歌った曲の解説をしている時のとこでした。映画のサントラの話になり、突然、「アイ・ジャスト・コールド・トゥ・セイ・アイ・ラヴ・ユー」の話になったんですね。そして、ケイリブがなぜ彼がこの曲を嫌いかを延々とまくし立て始めました。いやあ、このトークはおもしろかったですね。ケイリブによれば、「スティーヴィーはあの頃、お金が必要だったから、ヒット曲を書かなければならなかった。スティーヴィーくらい才能があると、彼らはいくらでもヒット曲など書こうと思えば、書ける。でも普段はもっとクリエイティヴに曲を書こうとしている。しかし、あの時、スティーヴィーは税金問題を抱えていた」というようなことをいろいろな例などを出しながら、解説したのです。かなり受けてました。(笑) いわばこう言った内幕ものは、あんまり語られないからおもしろいですね。まあ、これをスティーヴィー本人が認めるかどうかは、別問題ですが。(笑)

それにしても、このセット3は全曲の流れが見事でした。僕が思い描いた「ユー、ミー&ピアノ」にぴったしでした。そしてセット4へ向かうにつれ、彼のもとにスティーヴィーが舞い降りてきた感じでした。ケイリブ、ありがとう。You did great job! って感じです。

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>嬬葺ジェシカ さん

リンクありがとうございます。今日はインナーヴィジョンズですか。傑作です。
ジャマ。

ちょうど、カール・カールトンのダンス・クラシック「シーズ・ア・バッド・ママ・ジャマ」がかかった。日本のダンスマンは、この曲に「背の高い奴はジャマ」という空耳をあて、大ヒットさせた。これがメジャーのエイベックスからリリースされたのは、98年3月。そうか、もう6年も前のことになるのか。

すると、アシスタントのYが、「『She’s A Bad Mama, Jama』ってどういう意味ですか」と尋ねてきた。「う〜〜ん、彼女は、最高の女だ、って感じかなあ。『ママ、ジャマ』の『ジャマ』は、語呂合わせで意味はないんだ。直接的には、シーズ・ア・バッド・ママで、彼女は最高にいい女、ということ。ママは女性を一般的に指す言葉。バッド・ママで、いい女、まぶい女、最高の女、ってところじゃないかなあ。で、そのあとのジャマは、日本語のギャグで言えば、『住めば都はるみ』の『はるみ』みたいなもの。語呂遊び。で、いいですか、マーヴィン先生?」 「そだね!」と踊りながらマーヴィン。

そして、そのダンスマンがゲストに登場。『ソウルブレンズ』にはぴったりのゲストです。ダンスマンのとぼけた話はとにかくおもしろい。ダンスマンは空耳をあてるためにいろいろなネタを常日頃から考えているという。そうしたネタをメモに書きためて、なんらかの曲にぴったしあうと、一曲できるというわけだ。

ダンスマンは新作『ファンカヴァリック』のプロモーションでやってきたわけだが今日は5月8日に発売されるシングル「アフロ軍曹」も宣伝していった。これは、テレビ東京系で毎週土曜日朝10時から放送されているアニメ『ケロロ軍曹』の後テーマ曲。ダンスマンによると「バーケイズの『フリーク・ショウ』とダズバンドの『レット・イット・ウィップ』を足して二で割らない、足したまんまの曲です」という。で、聴いてみると、コメントどおりで、笑った。バーケイズ、そのままだ。そこで、番組では曲が終った後、BGMでバーケイズ「フリーク・ショウ…」をかけました。ダンスマン、それにあわせて、「アフロ軍曹」の歌詞を歌ってました。
ウォームアップ。

アル・ジャロウの約一年ぶりのブルーノート公演。初日のセカンドということもあってか、かなりリラックスした様子。まだまだこれから一週間あるぞ、という感じだ。彼の場合、曲順などもかなりスポンテニアス(自然)な感じで、その場の雰囲気で決めていく。初日のためか、まだ声もそれほどでていなかったようだが、時折、見せる「声の遊び」はさすがヴェテラン。

ジャズの名曲「テイク5」をスキャットで始めるスタイルは、昨年見たもの。これはどんどんとグルーヴ感をあげていき、徐々に楽器を加えていく。「モーニン」は、ほとんどいつも必ず歌う曲。

「僕たちをまたこの店に呼んでくれてありがとう。ハタさん、ハタさん、ナカムラさん、ナカムラさん…(どちらも店長、マネージャーなど)」 そこにアル節のメロディーがつくと、もはや見事な「音楽」だ。さらに「シミズさん、シミズさん…。彼はシェフなんだ。僕は大事な人を知ってるんだ」 客席から笑いがまきおこる。

「さて、じゃあ7月に発売される予定の新作から一曲やろうか。新作のタイトルは、『アクセンチュア・ザ・ポジティヴ、エリミネート・ザ・ネガティヴ』(ものすごく早口だったのを聞き取ったため、ひょっとしたらちがうかもしれません。前向きさを伸ばし、後ろ向きなことを削除しよう、ということだと思う。ポジティヴを伸ばし、ネガティヴを減らす、ということでしょう)。あなたは、この新作を10枚買ってくれるかな、そちらのあなたは20枚、そして、そちらの方は、1枚?」(笑)

そして、ラリー・ウィリアムスのシンプルなキーボードで歌い始めたのがスタンダードの「マイ・フーリッシュ・ハート」だった。2004年8月発売予定の新作アルバムは、ピアノ、ギター、ベース、ドラムスをバックにほとんどすべてワンテイクで録音したもので、スタンダードソングを中心にしたものになる、という。

しかし、珍しくアンコール含めて58分という短いライヴだったので、少々物足りなかった。ま、初日だからしょうがないかな。おそらく日が重なるにつれて、徐々にウォームアップし、もりあがっていくことだろう。

そして、外に出るといつの間にか小雨が降っていた。アル・ジャロウと雨の日と月曜日…。

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前回ライヴ評。2003年3月23日付け日記。
http://diarynote.jp/d/32970/20030323.html

ブルーノート・ウェッブ。ライヴは5月2日まで。
http://www.bluenote.co.jp/art/20040426.html

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Setlist
Second Set (incomplete)

show started 21:33

1. Tell Me What I Gotta Do (From "L is for Lover" - 1986)
2. Flame (From "Tomorrow Today" - 2000)

Medley
3. Save Me (From "Jarreau" -- 1983)
4. My Old Friend (From "Breakin Away" -- 1981)
5. Trouble In Paradise (From "Jarreau" -- 1983)
6. Distracted (From "This Time" -- 1980)

+ Thank you Hata-san, Nakamura-san, Shimizu-san

7. My Foolish Heart (From "Accentuate The Positive" - 2004)
8. Puddit (Put it Where You Want It) (From "Tomorrow Today" --2000)
9. Mornin’ (From "Jarreau" -- 1983)
10. Take 5 (From "Look To The Rainbow/Live In Europe" -- 1977)
11.Roof Garden (From "Breakin’ Away" -- 1981)

show ended 22:31

(2004年4月26日月曜ブルーノート・セカンド=アル・ジャロウ・ライヴ)
二日酔い。

雨の量はそれほどではないが、風がものすごい一日。会場のスイートベイジルにはちょうど一部の後半に着いた。休憩をはさんで第二部がスタート。なにから始まるかと思いきや、「ゴールデン・レイディー」から。おおおっ。以前番組で歌ってくれたのを聴いたが、バンドでしかも、弦のカルテットをバックに聴く「ゴールデン・レイディー」はおつなものでした。

エルヴィス・コステロの「シー」、スタンダードの「スマイル」などをはさんで、再びスティーヴィーの「ザット・ガール」。新作アルバム『30』に収録されている作品だ。オリジナルはミディアム調のものをToku(トク)は、かなりスローにして歌う。

スローの作品が多いが、Tokuは、時の流れをうまくつかんで自分の時間と空間を作り出す。やはり新作『30』に収録されている彼自身が作詞作曲をてがけた「ロバータ」は、なかなか雰囲気のある作品。ちょうど、この曲の間奏でフルーゲルホーンのところにさしかかった時、テーブルの小さなグラスにぺリエが注がれた。ぺリエの泡と彼のフルーゲルが妙にいいマッチングを見せていた。

アンコール3曲のトップで、弦4人をバックにマイクを使わずに「スターダスト」を歌った。会場の観客全員がTokuを凝視する。歩く足音さえうるさく感じられるほどの静寂の中に彼の歌声だけが響いた。男女比率2:8くらいで圧倒的に女性が多い観客は、みな彼の歌声に酔いしれ、目はハートマークになっていたかのようだった。そして、再びバンドが登場し、フランク・マッコムの作品「ガッタ・ファインド・ア・ウェイ」。これなども、すごく彼に向いた作品だ。そして、最後は新作アルバムのトップを飾る「ハロー・イッツ・ミー」。

丸い氷の入ったグラスを片手にした同行ソウルメイトM曰く「こういう曲、聴いてるとどんどん酔っちゃうので、もう水にしておきます(笑)」。Tokuが観客みんなを酔わせた夜だった。中にはその強烈なToku度数ゆえに、二日酔いになる人もいるかもしれない。それはToku Hangover.

(2004年4月27日火曜=スイートベイジル、TOKU(トク)ライヴ)

"Gospel Is…" Live 

2004年4月29日
迫力。

熱いゴスペルの熱気が会場に湯気をもださせたか。武道館などではよく見られる湯気のような白い煙が、薄く会場にたちこめていた。ニューヨークで大当たりしたミュージカル『ママ、アイ・ウォント・トゥ・シング』のプロデューサー、ヴァイ・ヒギンセンがてがけた新作。タイトルは、その名も『ゴスペル・イズ』。意味は「ゴスペルとは…」ということ。

ミュージカルではなく、ライヴ・ショウだった。12人の男女混声のコーラスにドラム、ベース、キーボードの3人のバック。なんといっても、その12人のコーラスの迫力にまいる。宗教などまったく関係なく、歌そのものの力を思う存分見せてくれる。おそらく、会場の半分以上の人たちは歌詞のメッセージなど知らずに、ビートとサウンドとリズムに乗って楽しんでいるのだろう。

ここでは、ゴスペルは完全なエンタテインメントである。日本におけるコーラス・グループ・ブーム、アカペラ・ブーム、あるいは、ゴスペル・ブームというのがあるとすれば、その市場にどんぴしゃのタイミングとも言える。そして、ここで歌にあわせて踊ったりしている観客の中には仏教にせよ、他の宗教の人たちもいるのかもしれない。

途中、アレサ・フランクリンの「シンク」、ダイアナ・ロス、あるいは、マーヴィン・ゲイなどでもおなじみの「エイント・ノー・マウンテイン・ハイ・イナフ」、「アイ・ウィル・フォロー・ヒム」、「オー・ハッピー・デイ」などなじみの曲をいれ、リードシンガーも入れ替わり立ち代り皆大活躍。

一番印象に残ったのは、12人のコーラスとキーボードだけでやった「アメイジング・グレイス」。12人のコーラスがユニゾンで綺麗にまとまった。

またアップテンポの曲では観客が立ち上がって、音楽を楽しんでいたが、これなどほぼディスコ状態と同じだ。アンコール3曲目の「エヴリシングス・ゴナ・ビー・オールライト」は、最後ほぼドラマーとキーボード、ベースだけになり、15分以上続いた。アンコール含めて18曲、熱狂のステージの幕を下ろした。一言で言えば「本場の迫力はすごいね」。

(2004年12月28日水・新宿厚生年金=ゴスペル・イズ…・ライヴ)
証明。

午後一。ソウルメイトSから電話。「スティーヴィーの時にいた子がテレビにでてるよ!」 あわててNHKをつける。番組は、『響けぼくの歌 〜木下航志 14歳の旅立ち〜』(NHK総合2004年4月29日午後1時05分から2時40分まで放送)というものだった。

彼こそが、スティーヴィーのライヴに来ていた「アイ・ジャスト・コールド・トゥ・セイ・アイ・ラヴ・ユー(心の愛)」を一字一句スティーヴィーと同じように歌う少年だった。
http://diarynote.jp/d/32970/20031229.html
そうかあ、彼が木下航志(きした・こうし)君というのか。1989年5月8日鹿児島生まれ。現在14歳。来月の誕生日で15歳。このドキュメンタリーの撮影は、2003年の初めからなので、13歳の時から14歳にかけての歴史ということになる。最初にBS(衛星放送)で放映されたらしいのだが、知らなかった。この日が地上波で再放送だったらしい。

20分くらいたったところから見たのだが、いやあ、やられた。なんと言っても、航志君がスティーヴィーの幼少の頃と重なる。スティーヴィーの幼少のころをリアルで知るわけではないが、本や映像やさまざまな資料などから想像するスティーヴィーの幼少の頃を彷彿(ほうふつ)とさせる。ライヴでのユーモアあふれる司会ぶり。ヘッドセットをつけ、エレピの前に座った彼は一曲歌い終えて言った。「ま、まちがえるのも人生ですよ」 スティーヴィーも、大人を食ったようなユーモアが得意だった。その名(迷?)司会ぶりにも「スティーヴィーらしさ」を感じてしまった。(笑) そう、現在14歳の彼はさしずめ「リトル・コーシ」(リトル・スティーヴィーをもじって)といったところか。

レコーディング風景。録音の合間に聞かせたエルヴィスとダニー・ハザウェイのCD。そして、その直後に歌った「アメイジング・グレイス」の変貌ぶり。番組ではほんの10秒程度しかでていなかったが、あれが、直後のものなら、本当にすごいことだ。才能が伸びているまさにその瞬間を、あの映像は捉えたと思う。今、彼はあらゆる音楽を、貪欲に、スポンジのように吸収している最中だと思う。今、この時期にこそいい、良質の音楽をどんどんと聴いて吸収し、自分のものにしていって欲しい。その先には無限の可能性が秘められている。

下北沢ライヴハウスでのライヴ。リハでは、「ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ」などもちらっと聴こえた。そして、印象づけられたのは、まず「ザ・スラムス(邦題、貧民街)」。ダニー・ハザウェイの73年のアルバム『エクステンション・オブ・ア・マン(邦題、愛と自由を求めて)』収録のインストゥルメンタルの一曲。放送では編集され「ユーヴ・ガット・ア・フレンド(邦題、きみの友だち)」が続いた。次の機会には古いウォーリッツァーで弾いてほしいな。

「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」の歌詞にはいる直前の「ウー、ウー」という歌声だけで背筋がぞくぞくとした。これだけの音楽に対する吸収力と理解度があると、彼などは教会に行かずとも、教会に行ったのと同じくらいの音楽的素養を得るのではないかと思った。ということは、天才とは吸収力と理解度が並外れた人間のことを言うのだろうか。このほんの2秒の「ウー、ウー」に僕は、ダイアモンドの原石を垣間見た。

たぶん、彼はまだ歌詞の意味や、英語はそれほどわかっていないかもしれない。発音もおぼつかないところもある。だが、何年か人生を歩んで行けば、すぐに彼はこうした曲が持つ意味あいを理解し、もっと深みをもった歌に仕上げることになると思う。それは表面的に英語曲をなぞるのではなく、音楽の本質に迫ることができる才能を持っているからこそできることなのだ。そういう才能を持っている人はなかなか多くない。

スティーヴィーと一緒のステージで「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」を、ダニー・ヴァージョンで歌って欲しいな。スティーヴィーも絶対に彼のことが気に入るだろう。『ソウル・サーチン・トーキング』でダニー・ハザウェイをとりあげることになったら、フランク・マッコムとこの航志君に来て歌って欲しい。(笑) 「ユーヴ・ガット…」のイントロのキーボードが流れてきた瞬間、観客からの歓声が聴こえて来ることがたやすく想像できる。そして終ったときに万雷のスタンディング・オヴェーションが鳴り止まないことも。

彼の歌声は、そして、音楽の力は国境も、人種も、年齢もすべて超越する。航志君はそれを見事に証明している。

(2004年4月29日木曜・NHK総合「響けぼくの歌 〜木下航志 14歳の旅立ち〜」)

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