帰郷。

そこはかつて映画館だった。その名は「ロイヤル・シアター・シネマ」。60年代にその映画館はレコーディング・スタジオになった。そして、名前はシンプルに「ロイヤル・スタジオ」に。70年代初期からこの小さく汚いスタジオから数々のヒットが世界中に放たれた。スターになったのは、アル・グリーン、アン・ピーブルス、シル・ジョンソン、OVライト・・・。ここでレコーディングしていったシンガーも多い。

メンフィスの貴公子、アル・グリーンがそのメンフィスで新作をレコーディングした。しかも、かつて70年代に手を組んで数多くの大ヒットを放ったプロデューサー、ウィリー・ミッチェルとともに、同じロイヤル・スタジオで、しかも同じマイクロフォンを使って録音したのだ。70年代のハイ・サウンドが再現されるのか。

これは、アル・グリーンがこのほど契約したブルーノート・レコードからの移籍第一弾アルバムで、タイトルは『アイ・キャント・ストップ』。全米で11月18日の発売が予定されている。

メンフィスのロイヤル・スタジオで、ウィリー・ミッチェルとアル・グリーンは、70年代初期に「タイアード・オブ・ビーイング・アローン」、「レッツ・ステイ・トゥゲザー」、「シャララ」など多数の作品を録音、ヒットさせた。いわば盟友同士である。そのアル・グリーンとウィリー・ミッチェルが手を組むのは85年のアルのゴスペル・アルバム『ヒー・イズ・ザ・ライト』以来のことだという。

一方、この新録による新作の発売のため、彼のハイ時代の4枚組ベスト作品集『アル・グリーン、イモータル・ソウル・オブ…』の発売が2004年初頭に延期された。この4枚組には1967年から78年までにハイ・レコードで録音された75曲が収録され、マスターテープから新たにリマスターされている。

このロイヤル・スタジオは、ウィリー・ミッチェルが所有しているが、彼は70年代に数多くのヒットを生み出したハイ・レコード(アルなど前述のアーティストはみなハイ・レコード所属)の重要人物でもあった。そして、ロイヤル・スタジオで、ウィリーのプロデュースでアルバムを録音した日本人歌手がいる。オリトだ。そのアルバムは95年6月『ソウル・フード』のタイトルで発売された。

スタジオは軽く30年以上の古さ、しかも、マイクも30年以上前のもののはずだ。21世紀の今日、果たして四半世紀前へタイムトリップさせてくれるか、楽しみだ。