ニューヨーカー。

ビリー・ジョエルの歌はニューヨークそのものです。ニューヨークへの熱き思いを託した傑作曲「ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド(邦題ニューヨークの想い)」は、まさに生粋のニューヨーカーならではの作品ですね。

ニューヨークからどこかに旅立つ時に、飛行機ではなくグレイハウンドのバスで行きたい、というその一行だけで、このソングライターのファンになってしまいます。バスで、ハドソン・リヴァーを渡っていく。バスなら徐々にあの摩天楼が離れていきます。

そして、あちこちに旅をして、あらゆるところに住んでみて、だがやはりニューヨークがいいと思う。次のラインも、ソウル・サーチャーの心をわしづかみですね。(笑) "It was so easy living day by day / Out of touch with the rhythym and blues /But now I need a little give and take "。つまり、「大都会ではないところで、その日暮らしをしているのは、簡単だ。(←直訳) でも、そんな生活にはリズム&ブルーズはない。そろそろ、そんな喧騒が必要だ」といった感じでしょうか。リズム&ブルースは都会の日々の出来事を歌っているというニュアンスで捉えてもいいでしょう。あるいは、ニューヨークにはR&Bがあふれている、と思ってもいい。ギヴ&テイクが必要だ、はギヴ&テイクじゃないとやっていけないぎすぎすした日常のことですね。田舎は、きっと、のんびりしていてギヴ&ギヴで、みんなが誰かに対してなんでもテイクを期待せずにしてくれる。でも、都会はギヴ&テイクじゃないとだめだ、という雰囲気です。

この曲の最初のところでの「グレイハウンドでハドソン川を渡る時」は、マンハッタンからどこかへ行く時を描いているように思えます。一方、最後の部分は同じ「グレイハウンドでハドソン川を渡る」という時、今度は外からマンハッタンへ戻ってくる状況なのではないでしょうか。歌詞だけからはどちらともとれるんですが。非常によくできてますね。

僕も、田舎も好きですが、猥雑な大都会も好き。よってこういう雰囲気はかなりきますね。(笑) これがもし東京だったら、どうなるんでしょう。「多摩川を長距離バスで渡りたい…」とかになるのかな。(笑) 深夜バスかなんかにのって新宿の高層ビル群がどんどん離れていく、って感じでしょうか。

この「ニューヨーク・ステイト・オブ・マイ・マインド」は、ビリーのほか、同じくピアノ・ウーマン、オリータ・アダムスのヴァージョンが染みます。バーブラ・ストレイサンド、カーメン・マクレイ、ダイアン・シュアーなどもレコーディングしています。

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「ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド」
ビリー・ジョエル 
(アルバム『ターンスタイル(邦題ニューヨーク物語)』1976年)

休暇を取るとき、都会から逃れたいと思う者もいる
飛行機でマイアミやハリウッドに行く者たち…
だが、僕はグレイハウンドのバスで、ゆっくりハドソン川を渡って
マンハッタンを離れたい
僕の心はいつもニューヨークにあるから

高級車やリムジンに乗っている映画スターも見た
緑の美しいロッキー山脈にも登った
そして自分に何が必要かがわかったんだ
もうこれ以上無駄な時間は過ごせないと悟った
僕の心はやっぱりニューヨークにあるんだ、と。

旅先でその日暮らしに流される
だがそんな生活にリズム&ブルースは流れてこない
そう、そろそろ僕には都会の喧騒が必要になってきたみたい
ニューヨークタイムズや、デイリーニューズがまた読みたい

それは、ぎすぎすした現実感にあふれた生活だろう
でもそれでいいんだ、しばらく成り行きまかせの日々をすごしてきたからね
チャイナタウンでもリヴァーサイドでも、住むのはどこでもいい
どこだっていいんだ。一度はすべてを捨ててしまったんだから
でも今、僕の心は再びニューヨークに引き戻されている…

グレイハウンド・バスでハドソン川を渡ってマンハッタンに戻る
今、僕の身も心も、ニューヨークに戻ってきたんだ

(訳詞The Soul Searcher)

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