◎ 演劇『日本の面影』を見て~今重みを持つ小泉八雲のメッセージ「科学ハ世ノ中ダメニシマス」

【Glimpses Of Unfamiliar Japan: Koizumi Yakumo’s Story】

面影。

今から162年前、1850年6月、ギリシャの小さな街に一人の男性が生まれた。その名をラフカディオ・ハーンという。ハーンは20代でアメリカにわたり、ジャーナリスト/作家として活躍。40歳のときに、アメリカの出版社の特派員として来日。日本に魅せられた彼は、鳥取県松江市で英語教師として働き始める。そこで知り合ったセツと結婚。日本に帰化し、小泉八雲となった。

その彼の生涯を描いた作品『日本の面影』が女優紺野美沙子さんが主宰する「朗読座」の第1回演劇公演として、2012年7月12日(木)から六本木の俳優座でスタートした。ご縁があり友人の大西さんからのお誘いで2日目の公演を拝見した。入口のホワイエのところには、たくさんの花束。



この『日本の面影』は、山田太一原作・脚本で元々1984年3月にNHKでテレビ・ドラマ化(4回)され、その後1996年に地人会製作で舞台化されたもの。舞台として再演となる。

ネタバレにならないように書くが、ひとつだけ。何しろ、ストーリーがよく出来ている。原作・台本がよいということ。そして出演者がきっちりやるべきことをやっていて見事。何度も再演がかかるだけあり、まさに古典といってもいいのだろう。

ハーン(舞台では、ヘルンさん、ヘルン先生と呼ばれている)の(彼が日本に来た当時よりも)古き良き時代の日本を愛するところ、それと比べて変化が起こり始めていることへの警鐘など、その示唆は2012年の今にも共通する普遍的なもので驚く。人間の根本的な考え方、洞察力がある人が見る本質、というものは、時代を超えて本当に永続的なものだと思った。

熊本へ引越しそこの教師とハーンがやりあうところのセリフなど、そのまま今にあてはまる。

そして、一番印象に残るのがハーンのこのセリフだ。

「科学ハ世ノ中ダメニシマス」Science will destroy the world.

これは重い。

日本では311後、終戦後同様、さまざまな価値観が劇的に変わっているが、奇しくもこの作品は小泉八雲の普遍的な価値観を浮き彫りにしている。

今回は16公演のうち4公演に英語字幕をつける、という。日本在住の外国人の方にも見ていただきたいとのこと。字幕付きは18日のマチネ・ソワレ(昼公演・夜公演)、19、20日のソワレ(夜公演)。

ありきたりの言葉になってしまうが、映像、舞台セット、そして演技ももちろん、じつによく練られていて、本当にきっちりと真摯に作られている作品だ。

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◎メイド・イン・ジャパンにかける思い

和物。

公演後、少しだけ紺野さんとお話することができた。

そもそもなぜ今、小泉八雲だったのだろうか。

「たまたま小泉八雲だったということなんです。もともと『メイド・イン・ジャパン』というお芝居をやりたいと思っていたんです。14年前から国連親善大使をやっており、いろいろと海外に行っています。そうして世界を見ていると、どんどん(日本でも)『和物・和風』の芝居が少なくなっているなあと感じていたんです。昔は芸術座などそうしたものをかける劇場もいろいろありましたけれど。大人の人が見られるお芝居が少なくなってきていて、やはり、(自分は)日本のものをやりたいなあ、と思ってたんです。そんなときに、山田太一さんの『日本の面影』という作品に出会って、『これだ、こういうのをやりたいな』と思ったんです」

「この舞台は3年ほど前からやろうと思っていたのですが、演出家さんのスケジュール待ちなどで今年のこの時期になりました」と言う。企画段階では、311大震災は起きていないから、311から1年を経た今上演という点に運命的なものがあるのかもしれない。

「台本は(初演のものと)同じですが、演出が違うとまったく違う作品になっていると思います」と語る。

意気込みがホームページのあいさつの中にも書かれている。

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今回7月の上演は、3年前から決まっていましたが、震災後「日本の面影」の描く古き良き日本の姿、小泉八雲のセリフのひとつひとつの重みが増しているように思えます。

例えば「科学ハ世ノ中ダメニシマス」という台詞です。

「単純、温和、丁寧、親切、微笑み、幽霊」など、八雲の見た明治半ばの日本人の美徳を、現代の私たちが触れることで「日本人の心の温故知新」になればと私は思っております。

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(紺野さんのホームページからメッセージより)

本を読んで、ハーン役は草刈さんしかいないと思ってお願いしたそうで、草刈さんもこれは自分しかないと、公演の半年前からセリフを覚え始めたという。

紺野さんは、草刈さんと主演を張るだけでなく、企画・製作するプロデューサー的な仕事もしている。『キャデラック・レコード』のビヨンセのようなものだ。あれも、ビヨンセはプロデューサーであり主役を演じた。

どこが一番大変でしたか、と尋ねると、「全部です」と答えた。プロデューサーとして観客動員も含めて経済的に成り立たせることと、役者としてきっちりメッセージを伝えること、その二つをやりとげるのは大変なご苦労だったと想像した。

六本木・俳優座で7月25日まで。小泉八雲とそのメッセージ、演劇に興味ある方はぜひ。

紺野美沙子ウェッブ。紺野さん、草刈さんのビデオメッセージ。
http://www.konno-misako.com/htm/omokage.html

公演概要・チケット詳細はこちら。出演者プロフィール、あらすじなど→
http://nihonnoomokage.com/

2012年7月12日から7月25日まで全16回公演。その後金沢公演が7月28日に。

【料金】全席指定、消費税込み
●前売り:7,000円
●学生:5,000円 ※前売りのみ、要学生証(生徒の方は年齢証明ができるもの)
●当日券:7,500円

【チケット取り扱い】 電話 03-3709-9430(花組芝居 平日11:00~19:00)
チケットぴあ 0570-02-9999(Pコード 418-647) / http://pia.jp/t(PC&携帯)
ローソンチケット 0570-000-407(オペレーター受付)
0570-084-003(Lコード 39187) / http://l-tike.com(PC&携帯)
イープラス http://eplus.jp(PC&携帯)
お問い合わせ:オーキャン
TEL:03-3560-7623・FAX:03-3560-7624・e-mail:roudokuza@oh-can.jp
制作協力:株式会社アマゾンラテルナ
企画・制作:朗読座実行委員会
〒151-8507 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-50-11 明星ビル4F 株式会社アマゾンラテルナ内


■追記

7月15日(日)午後1時半追記。一緒に行かれた大西さんもブログに書かれています。
http://www.tsune0024.jp/2012/07/15/0714/?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=0714

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朗読座。

紺野さん主宰の「朗読座」では定期的に朗読会を開催しています。ときにミュージシャンとのコラボレーションも。次回(第10回)は、2012年9月27日(木)、六本木スイートベイジル(STB139)で、紺野さんに、チェロの古川展生、ピアノの塩入俊哉さんら。紺野さん曰く「超おすすめです」。

なんと第1回公演では、馬頭琴のセーンジャさんと一緒にやられてた。セーンジャさんは僕もコンサートに行ったり、個人的にも親しくさせていただいているので、びっくり。世の中狭い。

改めてお誘いいただいた大西さんに感謝です。ほんとこれもご縁ですね。

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