軌跡。

ライヴ演奏が始まる前から妙に期待感が高まっている時がある。それは、僕個人がそうである時もあれば、周囲の観客がそうなっていて、その場の「空気」が「熱く」なっていることを僕が感じる時もある。12日のブルーノートのセカンドはそんな空気感が漂っていた。これは、理屈ではないのだろう。3日目、最後のライヴということを観客も、ミュージシャンも知っていて、そのことが微妙に作用しているのかもしれない。あるいは、過去2日間ライヴに通った観客が、このライヴのすばらしさを誰かに伝え、そうした期待を胸に秘めた人たちが多く集まっているのかもしれない。そうしたことは、確かに、初日ではありえない。この日、セカンドは立ち見がでるほどになっていた。

偶然会場で会ったケイリブ、エボニーを含め計8人が6人の席に座るという牛詰状態の中で、歌は始まった。

レイラ・ハザウェイの3日目は、曲目(セットリスト)だけで言えば、1日目とまったく同じである。ところがのりはまったく違った。日本風の上着を羽織り、足早にステージにあがったレイラは、「スマイル」から好調なすべりだし。観客からの歓声もいつになく熱い。

2曲を歌い終えて、さて、いよいよ・・・。「OK」という単語がキューになっているようだ。まず、第一のパンチ。「フライング・イージー」。う〜〜ん。いやいや、まいるなあ。実に気持ちよく歌うレイラ。疾走するフランクのキーボード。爽快感あふれるレイラの歌声。レイラとフランクのデュオをもっともっとやってほしい。

そして、「フライング・イージー」を終え、拍手の中、フランクがローズからアコースティック・ピアノに位置を移す。第二のパンチ。エボニーが「sing it you all」と声をかける。ダニーよりもテンポを遅くした「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」。初日よりもさらに磨きがかかっている。レイラからフランクへ。そして、二人のハーモニー。これは奇跡のハーモニーだ。

1990年、21歳でデビューした時、レイラはダニーの作品に触れることはなかった。それは触れることができない聖域だった。それから14年。レイラは少しずつダニーの作品に触れるようになってきた。ライヴで一曲だけやったり、なにかのイヴェントでちょっとやってみたり。この日、彼女が「フライング・イージー」と「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」というダニーが録音した作品を2曲続けて歌う意味は、娘が父に一歩一歩近づいていることの証だ。Slow But Surely. ゆっくりだが、確実に。この「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」は、レイラの父への歩み寄りの軌跡のハーモニーとも言えるのだ。

二人の「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」は、実に熱い。途中のかけあいなど、背筋がぞくぞくする。初日に見たというソウルメイトHは後日僕に「あれは、ダイアナ&マーヴィンに匹敵するね」と言った。これは何をおいてもレコーディングしてもらわないと困る。(笑) 彼らのヴァージョンを聴いていると、ダニー・ハザウェイのヴァージョンも忘れそうになるほどオリジナリティーにあふれている。一緒に見ていたケイリブがレイラをして「なんというミュージシャンだ。Very musical!(ものすごく、音楽的)」と感嘆した。その通りだ。ジェームス・テイラーが歌っていたことが、キャロル・キングが書いたという事実が、陽炎(かげろう)の如く遠くへ飛んでいく。これは、今この瞬間レイラとフランクの歌になりきっているのだ。

もっともっと、ずっとずっと、聴いていたい。終わらないで欲しい。二人を見つめながら、ずっとそう思っていた。

この日、「サマータイム」でトクさん、飛び入りで登場。さらに会場を熱くした。続く「ホエン・ユア・ライフ・ウォズ・ロウ」のイントロが始まった瞬間、自らその曲をレパートリーにしているエボニーは悲鳴をあげた。「フィーヴァー」では、レイラの「立ち上がって踊りたければ、そうしていいのよ」の声に観客がみな立ち上がった。そしてアンコールの「ストリート・ライフ」が終るまで、みな立っていた。それはいつしかそのままスタンディング・オヴェーションになっていた。

「今年のベスト・一曲のパフォーマンス(Best One Performance Of The Year)」を選べと言われたら、現在のところ、僕はこのレイラ&フランクの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」を選ぶことになりそうだ。

Setlist (second set)

show started 21:45

1. Smile (From Album "Lalah Hathaway" - 1990)
2. One Day I’ll Fly Away (From Joe Sample/Lalah Hathaway Album "The Song Lives On" - 1999)
3. Flying Easy (From Donny Hathaway’s Album "Extension Of A Man" - 1973)
4. You’ve Got A Friend (From Donny Hathaway’s Album "Live" - 1971))(Lalah & Frank)
5. Cupid’s Arrow (From Frank McComb’s Album "Truth" - 2003)(Frank)
6. Summertime (standard)(with TOKU)
7. When Your Life Was Low (From Joe Sample/Lalah Hathaway Album "The Song Lives On" - 1999)
8. Somethin’ (From Album "Lalah Hathaway" - 1990)
9. Fever (From Joe Sample/Lalah Hathaway Album "The Song Lives On" - 1999)

Encore. Street Life (From Joe Sample/Lalah Hathaway Album "The Song Lives On" - 1999)

show ended 23:02

(2004年5月12日水曜セカンド・ブルーノート東京=レイラ・ハザウェイ・ライヴ、ゲスト・フランク・マッコム)