◎「ノーザン・ソウル」とは何か~フローレッツ・ライヴから (パート2)

(昨日のつづき)

【What Northern Soul Is – Floorettes Live】

ノーザン・ソウル。

フローレッツのメンバーから「自分たちの音楽は、しいていえば『ノーザン・ソウル』」という言葉が飛び出した。あまりこの「ノーザン・ソウル」(北部のソウル・ミュージック)という言葉はなじみがないかと思うので、簡単に解説する。

この言葉が出始めたのがイギリスの音楽シーンで1970年代初頭のこと。僕は当時購読していたイギリスの「ブルーズ・アンド・ソウル」誌、「ブラック・ミュージック」誌でしばしば特集が組まれてその存在を知った。ロンドンでソウルのレコードを売っていたレコード店主で音楽評論家としてブルーズ・アンド・ソウルに毎号コラムを書いていたデイヴ・ゴッディンという人物が使い始めた。

1972年~73年くらいだと日本では「サザン・ソウル」(南部のソウル・ミュージック)が一部マニアで注目されるようになっていたが、「ノーザン・ソウル」はそれほどでもなく、なぜイギリスではこれが話題になっているのかものすごく興味を持った。

「ノーザン・ソウル」と一口にいったときに、アメリカで使う場合とイギリスで使う場合、若干ニュアンスがちがうので説明が必要だ。

一般的に「サザン・ソウル」という場合、スタックスやハイ、ゴールド・ワックス、マラコ、マスル・ショールズなどの南部のレーベルからでてきたソウル音楽を言う。一方、デトロイト、シカゴなど北部から出てきたソウルが「ノーザン・ソウル」だ。モータウン、チェスやその地域の多くのインディ・レーベルがそれにあたる。ただアメリカのソウル・ミュージック・シーンでは、「サザン・ソウル」「ノーザン・ソウル」という言い方はあまりしない。

一方、イギリスではこの「ノーザン・ソウル」と言う言葉が1970年代になってから急速に広まりをみせた。イギリスではアメリカの南部、北部のソウルをしっかり分けて捉えるようになったためだ。こういう気質は日本とイギリスはよく似ている。

そして、イギリスでは「サザン・ソウル」よりなぜか「ノーザン・ソウル」のほうが人気が高い。日本はしいていえば、「サザン・ソウル」のほうが若干人気が高いような気がする。

ロンドンより北のマンチェスターやタンストールなどの街にあるクラブで流行り出したモータウン系のソウル・ミュージックなどを指して「ノーザン・ソウル」と呼ぶようになる。つまり、イギリスの北部の街で人気となったソウル・ミュージックという意味だ。ここがややこしいのだ。イギリス北部(ノーザン)で人気を集めたアメリカの北部(ノーザン)のソウル=モータウンを中心にしたチェスやその他のインディものソウルなどがそれらすべてを含めて広義の「ノーザン・ソウル」だ。

■1960年代後期から人気に

イギリスでの「ノーザン・ソウル」の隆盛の仕掛け人となったのは前述のデイヴ・ゴッディングだが、その後、ランカシャーにあるウィゲン・カシーノ、同じランカシャーのブラックプールにあるブラックプール・メッカ、ストークなどがノーザン・ソウル・シーンのメッカとなった。特にウィゲン・カシーノは、ノーザン・ソウル・シーンの中心地としてイギリス各地から多くの客を集めるようになり、カシーノ・クラシックスというレーベルも始めるほどになる。このウィゲン・カシーノのレギュラーDJだったのがイアン・レヴィンで、後にデトロイトのシンガーをディスコ調にしてプロデュースするようになる。他にサイモン・スザーン(DJからプロデューサーに転じ、シャラマーのデビュー作をてがける)らが積極的に「ノーザン・ソウル」ものを紹介し、「ノーザン・ソウル・シーン」からスターDJが生まれ現象も拡大していく。

イギリスでの「ノーザン・ソウル」は、モータウンだけでなく、チェス/チェッカーや、デトロイトのインディ・レーベル、また場所は問わずサウンドだけでもそれに似たサウンドならそのジャンルとして捉えられた。フローレッツもカヴァーしている「S.T.O.P」はニュージャージー出身のヴォーカル・グループローレライで、レコーディングもニューヨーク、1972年の作品だがサウンドが60年代風モータウンということもあり「ノーザン・ソウル」ものとして捉えられたようだ。

そして60年代後期に起こり始めたこれらの「ノーザン・ソウル・シーン」を当初支えたのは、60年代中期に全盛だったモッズだったという。

1970年代からイギリスでいう「ノーザン・ソウル」と純粋にアメリカの北部のソウル・ミュージック(モータウン、チェスなど)を指す「ノーザン・ソウル」と、ニュアンスの違いがなかなか理解しづらく、おそらく正しく把握している人も少ないだろうから書いてみた。

で、このフローレッツはまさにそのイギリスでいう「ノーザン・ソウル」を狙っているグループだという説明である。もちろんそれはモータウンやそのほかデトロイト、チェス、その他のインディ・レーベルからでてきたポップなソウル・ミュージックを指す。

「サザン・ソウル」が泥臭くアーシーなサウンド、歌唱が特徴であるのに対し「ノーザン」は、都会的に洗練されていてポップ調であることが特徴。そして、DJたちはヒットチャートで上位に入ったソウル・ヒットというよりむしろ珍しいシングル盤を競うように探し、かけていた。

最近、「ノーザン・ソウル」の隠れた名曲のシングルがもっとも高い値段で取引きされたというニュースを伝えた。死去したフランク・ウィルソンの「ドゥ・アイ・ラヴ・ユー」だ。

フランク・ウィルソン~モータウン・プロデューサー、死去
2012年10月05日
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-11371041959.html

フローレッツがおもしろいのは、自分たちのセットリストに何曲かの古い「ノーザン・ソウル」の珍しい曲のカヴァーを含めていたこと。僕もぜんぜんわからないのでメンバーに聞いた。ご紹介したセットリストの [ ] 内が彼らの知るオリジナルだ。

もちろんこうした曲は彼らが生まれる前のヒット、いや、ヒットにもなっていない珍しい7インチ・シングルやアルバムからのものだ。メンバーの中にひとりDJがいてけっこうレコードやCDを集めていて、みんなでこういうタイプの曲を集めて、やるやらないを決めているという。音源はCDだったり、ユーチューブだったり、そうしたもので、このフローレッツにあっているものは、取り上げるという。

オリジナルを下記セットリストに記し、音源をユーチューブで探したので参考に聴いてみてください。なお、CDにはこうしたカヴァー曲は収録されていない。たぶん、著作権の問題、処理が大変だったのだろう。

Virginia Blakly - Let Nobody Love You
http://youtu.be/zCuIUB-56fo



THE TAMS - TAKE AWAY

http://youtu.be/Kf4cBEYqEt0



S.T.O.P (Stop) by The Lorelei

http://youtu.be/CGa8awmyWzI



Charmers – Looking For Trouble
http://youtu.be/lIKcJBRJQ_A



Sherri Taylor - He’s The One That Rings My Bell

http://youtu.be/zRn3nZIB6Vc



Swingin Swamis - Keep An Eye On Love - Ernestine Anderson
http://youtu.be/7lweh-N30ow



これだけの掘り起こしをさせてくれただけでも、フローレッツのメンバーに感謝だ。

■フローレッツ

S.T.O.P. (live)
http://youtu.be/nTeYvsrWyLc



■フローレッツ

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0069ZYVY6/soulsearchiho-22/ref=nosim/

■なんとこちらは、30センチ(12インチ)のアナログLP

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B006UPSMFY/soulsearchiho-22/ref=nosim/

■メンバー

Julia Riese(vo)
ユリア(ジュリア)・リーゼ(ヴォーカル)
Amelie Hinrichsen(vo,glockenspiel)
エイメリー・ヘンリクセン(ヴォーカル、グロッケンシュピール)
Katharina Dommisch(vo)
カタリーナ・ドミッシュ(ヴォーカル)

Timo J. Hennig(tp)
ティモ・ジェイ・ヘニック(トランペット)
Andre Stock(tb)
アンドレ・シュトック(トロンボーン)
Jean-Paul Mendelsohn(sax)
ジャン・ポール・メンデルゾーン(サックス)
Olaf Müller (sax)
オラフ・ミュラー(サックス)
Bernardo di Spitz(p,fender rhodes,org)
バーナード(ベアナード)・ディ・シュピッツ(ピアノ、フェンダーローズ、オルガン)
Alexander Dommisch(g)
アレキサンダー・ドミッシュ(ギター)
Ralph Schachler(b)
ラルフ・シャッフレア(ベース)
Maximilian Schubert(ds)
マキシミリアン・シューベルト(ドラムス)
Björn Reinemer(per)
ビアン・ライニメアー(パーカッション)

★DJs
Shuya Okino(Kyoto Jazz Massive) ※11.12mon.
DJ JIN(Rhymester) ※11.13tue.

■セットリスト フローレッツ
Setlist: Floorettes @ Bluenote Tokyo, November 12, 2012

show started 21:31
01.Intro
02.Girl’s Night Out
03.Witchcraft
04.Let Nobody Love You [Virginia Blakly]
05.Take Away [Tams]
06.Head Up High
07.Bus Song
08.Just So You Know
09.You’re My Man
10.Keep Calm And Carry On
11.One Chance
12.Love Can’t Be Modernized [The Trips]
13.Out Of Touch
14.Roller Song
15.Looking For Trouble [The Charmers]
16.WYSIWYG (What You See Is What You Get)
17.My Love Is True
18.S.T.O.P. [The Lorelei - 1972]
19.Release Me
20.Head Up High
Enc. Stop [Spice Girls]
Enc. It Don’t Matter
Show ended 22:44

(2012年11月13日火曜、ブルーノート東京、フローレッツ・ライヴ)
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2012