引き出し。

いきなり曲目不明の新曲らしき作品から始まった大阪公演初日。ゆったりとしたスロー系の作品は最初パーカッションだけから始まり、徐々にビルドアップする感じの作品だった。マイナー調のコードが続く中、女性コーラスがyour heart is just caught up in the moon blue と歌っていたように聞こえた。「ムーンブルー」という曲名だろうか。

この日はスティーヴィーの調子がけっこういいように感じた。観客の反応もまずまず、音響も悪くない。左横サイドから見ていたが、よく聞こえた。

その新曲「ムーンブルー」を10分近く演奏してから、続けて「ゴールデン・レディー」へ。以後はこれまでの流れと同様、「マスターブラスター」、「ハイヤー・グラウンド」、「オール・アイ・ドゥ」と続く。ここでジェリー・ブラウンが一度「ザット・ガール」のイントロを弾きだすが、スティーヴィーが「君はわかってないな・・・」と言って、アコースティック・ピアノ・セクションに突入。

なんとこの日は『ファースト・フィナーレ』からyou make me smile〜から始まる名曲「トゥ・シャイ・トゥ・セイ」! わお! なんという選曲、これもめったに聞けない一曲だ。そして、次に何がくるかと思えば『キー・オブ・ライフ』から「イズント・シー・ラヴリー」の次にかかる「ジョイ・インサイド・マイ・ティアーズ」がきた。このセクションは本当にいつも選曲がすばらしい。そして、「オーヴァージョイド」「リボン・イン・ザ・スカイ」まで4曲17分は、まさに至福の瞬間だった。

このあと「ドンチュー」にはいり、ここでドラムソロを披露。このところドラムソロは2回に一回くらいはやってくれるようだ。このあとがおもしろかった。なんとジェームス・ブラウンの「コールド・スウエット」をちょっとばかり歌って演奏したのだ。スティーヴィー、以前、「セックスマシン」をやろうとしたが、ミュージシャンがついてこなかったこともあったっけ。ブラウンの曲、けっこう好きなんですね。

そして、この日のもうひとつのサプライズが「スーパースティション」の後の「メイビー・ユア・ベイビー」。『トーキング・ブック』からのファンキーな一曲。これもめったに聞けない一曲だ。「スーパースティション」との並びでのプレイは曲調から納得した。

さらに、「アイ・ジャスト・コールド・・・」でいったんさよならをした後、アンコールに戻ってきた。「ここでは、僕と君とピアノで一曲歌おう」と言って始まったのが、「マイ・シェリー・アモール」のピアノ・アコースティック・ヴァージョン。そうきたか!
これはすばらしい。本当にいろいろアイデアをだしてくる。

そして、世界の現状を憂いたメッセージを語った。「次に歌う曲は、もうずいんぶん前に作られた曲だけど、そのメッセージは今も有効です。とてもシンプルなメッセージです。僕は、いつか人々がユナイト(一緒に)し、世界もひとつに(ユナイト)なる日がくると信じています。世界のリーダーたちにそれを知らせなければなりません。僕が今夜のことを覚えているように、あなたがたも今夜のことを忘れずにいてくれたらと希望します」

そして、僕はここで「ラヴズ・イン・ニード・オブ・ラヴ」かと思った。だが、ちがった。な、な、なんとジョン・レノンの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」だったのだ。このあたりが、本当にすごいな、と思う。またまたやられた。そして、これに続いて「アズ」、ここでおわるかと思ったら、さらに「アナザー・スター」まで。全2時間10分。非常に密度の濃い充実したライヴだった。

スティーヴィーは、楽器で遊ぶ。ありとあらゆる楽器を自由自在にこなし、それを自分のものにして、遊ぶ。そしてその遊ぶ様が、すでに人々の心を打つ。

スティーヴィーは、楽曲で遊ぶ。自分の作品はもちろんのこと、他のアーティストの作品でも、自分がやりたい曲だったらやるし、主張したいメッセージが同じだったら歌う。なにか究極の「音楽人」という感を強くした。彼のミュージシャンとしての引き出しの多さ、広さに改めて感銘を受けた次第だ。

(2004年1月6日大阪城ホール、スティーヴィー・ワンダー・ライヴ)