【目撃者はいるか、証人はいるか】
一方向。
ライヴ当日8月29日(水)の昼前に、品川教会に入るとすでに大勢の人々がステージを中心に忙しく動いていた。すごい人数だ。おそらく5−60人は軽くいただろう。DVD撮影隊、照明、PA関係、楽器関係、そして、ミュージシャンたちとその関係者・・・。武道館やドームのイヴェントならともかく、たかだか300人強のキャパ(収容人数)のライヴにこの数は驚いた。なにしろ60枚用意していたスタッフパスが足りなくなったほどだ。そして、その誰もが、18歳の木下航志くんひとりのために、一心不乱に動いていることにちょっと感銘した。
早いスタッフは9時集合。以後11時半集合、12時半集合のメンバーなど仕事の種類によって違うが、各人がそれぞれの持ち場で、各時間にしっかり仕事をして、準備を整え、そしてついにライヴ・アーティストがステージにあがり、やっと2時間のライヴが成立する。
ひとつのライヴを作るために、これほどの人たちが動いている。別に航志くんのライヴには限らないが、2時間から2時間半のライヴを見せるために、たくさんの人たちのエネルギーがそのためだけに凝縮されていくのだなということを改めて痛切に感じた。
しかも、ライヴは一夜限り、やり直しはない。悔いの残らないようなものにできるか。ミュージシャン、スタッフのヴェクトルは純粋に一方向だ。
ドキュメンタリー。
今回はDVD用の撮影隊がカメラ10台を備えた。一台は大きなクレーンに乗っている。これはライヴの模様をDVDとしてリリースするという話。さらにこの他に、現在航志君のドキュメンタリー映画を撮影しており、そのチームが3人、別働隊で動いている。これは大所帯になるわけだ。
この映画は「吉本100本映画」(正確には「YOSHIMOTO DIRECTOR’S 100 〜100人が映画撮りました〜」)という企画の1本で製作されるもの。吉本興業が若手タレントや作家、監督に30分程度の映画を撮らせる機会を与え、完成した作品を徐々に公開している。
航志君の作品は過去半年ほど彼を追っている松永大司(まつなが・だいし)さんが監督している。松永さんは航志君とともにニューヨークに行ったり、最近ではネパールにも行ったり、かなりべったりついてカメラを回している。航志君を追いながら、その周辺人物、航志君をよく知る人物たちへのインタヴューも集めている。
そこで、僕も簡単なインタヴューを受けたが、ソウル・サーチャーズのケイリブ・ジェームス、ブレンダ・ヴォーン、ゲイリー・スコット、ユリらにもリハーサルの合間に話を聞いた。そのとき、軽くインタヴュー役を引き受けたのだが、ケイリブやブレンダの話がかなり興味深かった。
ケイリブは言う。「航志はトランペットだ。僕にとってはアル・ジャロウはギターだ。その声、それこそが楽器なんだ。航志の声も楽器だ。アル・ジャロウは僕にはギターに思える。同じようにエラ・フィッツジェラルドはサックス奏者だ。で、航志はトランペットなんだ」 なるほど。ひじょうに面白い見解だ。
ブレンダは、航志君と知り合ってすでに数年経っている。最初からの成長ぶりを見守りながら、「私はアンティ・ブレンダ(ブレンダおばさん)なのよ。(笑)」という。そしてこう続けた。「彼の素晴らしいところは、たとえば、私が何歳か、関係ない。私の肌の色が何色かなんかも関係ない。私が背が高かろうが、小さかろうが、関係ない。そう、(私だけに対してでなく)何に対してもまったく偏見がないのよ。人と接するとき、背の高さ、容姿、年齢、肌の色などを気にする人は多いけど、彼はそこから生まれる偏見とはまったく無縁なのよね。それってとても素晴らしいことじゃない?」
ユリのアドヴァイスはこうだ。「ヴォーカルもそうだけど、ピアノのうまさに最近は特に驚いています。どんどんうまくなって欲しい。それと、ひとつのジャンルだけじゃなく、いろんな、ありとあらゆる音楽ジャンルを聴いて、勉強して。さまざまなシンガーを聴いて。彼くらい(レベルが高いところで)出来るなら、後はいかに自分のスタイルを作っていくかというだけよ」
ケイリブ。「彼と知り合って、何、まだ2年か。もっと長い間知っているような感じがするな。それほど、密度が濃いということかな。最初はお手並み拝見という感じだったが、ひとたびキーボードを弾いて、歌声を聴いたら、ノックダウンさせられたよ。お〜〜っ」
航志君は「最近、ケイリブのキーボード(ピアノ)に影響を受けてます」と告白した。そういわれてみると、水曜のライヴのいくつかのピアノ・プレイで、ちょっとケイリブ風に航志君が弾いているところが感じられた。新発見だ。たくさんのいいミュージシャンとコラボレーションして、どんどん感化され、影響を受け、吸収していけば、いいと思う。
そして、彼らはみな航志君の成長の目撃者であり、証言者であり、影響を与える人たちでもある。
(2007年8月29日水曜、品川教会=木下航志&ザ・ソウル・サーチャーズ・ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Kishita Kohshi & The Soul Searchers
2007-105
一方向。
ライヴ当日8月29日(水)の昼前に、品川教会に入るとすでに大勢の人々がステージを中心に忙しく動いていた。すごい人数だ。おそらく5−60人は軽くいただろう。DVD撮影隊、照明、PA関係、楽器関係、そして、ミュージシャンたちとその関係者・・・。武道館やドームのイヴェントならともかく、たかだか300人強のキャパ(収容人数)のライヴにこの数は驚いた。なにしろ60枚用意していたスタッフパスが足りなくなったほどだ。そして、その誰もが、18歳の木下航志くんひとりのために、一心不乱に動いていることにちょっと感銘した。
早いスタッフは9時集合。以後11時半集合、12時半集合のメンバーなど仕事の種類によって違うが、各人がそれぞれの持ち場で、各時間にしっかり仕事をして、準備を整え、そしてついにライヴ・アーティストがステージにあがり、やっと2時間のライヴが成立する。
ひとつのライヴを作るために、これほどの人たちが動いている。別に航志くんのライヴには限らないが、2時間から2時間半のライヴを見せるために、たくさんの人たちのエネルギーがそのためだけに凝縮されていくのだなということを改めて痛切に感じた。
しかも、ライヴは一夜限り、やり直しはない。悔いの残らないようなものにできるか。ミュージシャン、スタッフのヴェクトルは純粋に一方向だ。
ドキュメンタリー。
今回はDVD用の撮影隊がカメラ10台を備えた。一台は大きなクレーンに乗っている。これはライヴの模様をDVDとしてリリースするという話。さらにこの他に、現在航志君のドキュメンタリー映画を撮影しており、そのチームが3人、別働隊で動いている。これは大所帯になるわけだ。
この映画は「吉本100本映画」(正確には「YOSHIMOTO DIRECTOR’S 100 〜100人が映画撮りました〜」)という企画の1本で製作されるもの。吉本興業が若手タレントや作家、監督に30分程度の映画を撮らせる機会を与え、完成した作品を徐々に公開している。
航志君の作品は過去半年ほど彼を追っている松永大司(まつなが・だいし)さんが監督している。松永さんは航志君とともにニューヨークに行ったり、最近ではネパールにも行ったり、かなりべったりついてカメラを回している。航志君を追いながら、その周辺人物、航志君をよく知る人物たちへのインタヴューも集めている。
そこで、僕も簡単なインタヴューを受けたが、ソウル・サーチャーズのケイリブ・ジェームス、ブレンダ・ヴォーン、ゲイリー・スコット、ユリらにもリハーサルの合間に話を聞いた。そのとき、軽くインタヴュー役を引き受けたのだが、ケイリブやブレンダの話がかなり興味深かった。
ケイリブは言う。「航志はトランペットだ。僕にとってはアル・ジャロウはギターだ。その声、それこそが楽器なんだ。航志の声も楽器だ。アル・ジャロウは僕にはギターに思える。同じようにエラ・フィッツジェラルドはサックス奏者だ。で、航志はトランペットなんだ」 なるほど。ひじょうに面白い見解だ。
ブレンダは、航志君と知り合ってすでに数年経っている。最初からの成長ぶりを見守りながら、「私はアンティ・ブレンダ(ブレンダおばさん)なのよ。(笑)」という。そしてこう続けた。「彼の素晴らしいところは、たとえば、私が何歳か、関係ない。私の肌の色が何色かなんかも関係ない。私が背が高かろうが、小さかろうが、関係ない。そう、(私だけに対してでなく)何に対してもまったく偏見がないのよ。人と接するとき、背の高さ、容姿、年齢、肌の色などを気にする人は多いけど、彼はそこから生まれる偏見とはまったく無縁なのよね。それってとても素晴らしいことじゃない?」
ユリのアドヴァイスはこうだ。「ヴォーカルもそうだけど、ピアノのうまさに最近は特に驚いています。どんどんうまくなって欲しい。それと、ひとつのジャンルだけじゃなく、いろんな、ありとあらゆる音楽ジャンルを聴いて、勉強して。さまざまなシンガーを聴いて。彼くらい(レベルが高いところで)出来るなら、後はいかに自分のスタイルを作っていくかというだけよ」
ケイリブ。「彼と知り合って、何、まだ2年か。もっと長い間知っているような感じがするな。それほど、密度が濃いということかな。最初はお手並み拝見という感じだったが、ひとたびキーボードを弾いて、歌声を聴いたら、ノックダウンさせられたよ。お〜〜っ」
航志君は「最近、ケイリブのキーボード(ピアノ)に影響を受けてます」と告白した。そういわれてみると、水曜のライヴのいくつかのピアノ・プレイで、ちょっとケイリブ風に航志君が弾いているところが感じられた。新発見だ。たくさんのいいミュージシャンとコラボレーションして、どんどん感化され、影響を受け、吸収していけば、いいと思う。
そして、彼らはみな航志君の成長の目撃者であり、証言者であり、影響を与える人たちでもある。
(2007年8月29日水曜、品川教会=木下航志&ザ・ソウル・サーチャーズ・ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Kishita Kohshi & The Soul Searchers
2007-105