【カール・トーマス最新作『ソー・マッチ・ベター』と来日・・・】

偶然。

11月に来日するカール・トーマスについての打ち合わせをするために恵比寿ウェスティンのコーヒーハウスで、レコード会社の方と待ち合わせ。カールは、以前バッドボーイ・レーベルから2枚のアルバムを出し、3作目が日本で5月に出た『ソー・マッチ・ベター』(フォーミュラ・レコーディングス)。最初のアルバム『エモーショナル』がリリースされたのが2000年だから、もう7年も前のこと。ここに入っていた「アイ・ウィッシュ」は個人的にひじょうに好きだった。

横浜に、この「アイ・ウィッシュ」をうまくカヴァーするブラックのシンガーがいて、よくピアノバーで彼にリクエストした。というより、彼自身がその曲が大好きで歌っていて、それが僕も気に入っていたのだ。あの彼は今、どこに? (笑) 

この新作は、元MCAレコードのエグゼクティヴであり、元モータウン社長でもあったジェリル・バズビーがアメリカで興したアンブレラ・レコードからの作品。アメリカではユニバーサルが配給しているが、日本はフォーミュラ・レコーディングスがライセンス契約しリリースしている。このフォーミュラからは昨年一足先にケイシー&ジョジョのケイシーのソロアルバムが出た。

来日前に電話インタヴューして、新聞に掲載という話もあったのだが、紙面の都合がつかず、結局ライヴ評を書くということで落ち着いたところだった。来日時にインタヴューでもしましょうか、あるいは、レコード会社ではラジオ・プロモーションを考え中といった話だった。個人的には、キース・スゥエットに続いての来日男性ソウル・シンガーで期待もしていた。

彼のファースト・アルバム『エモーショナル』は、プラチナム・ディスクに輝いた。しかし、まったく予期せぬ悲劇が襲う。2004年10月31日、彼の2歳年上の兄が急死するのだ。兄は、地元イリノイ州で、十代の若者たちによる車からの無差別銃撃の銃弾に倒れ、亡くなったのである。

この兄の死で彼は決定的に落ち込み、そして人生について深く考えたという。このときバッドボーイは、そのニュースをカールのファンに知らせることもなかった。さらに2作目の制作課程で、作品への介入が前作に比べ著しく大きくなり、カールはレーベルと対立。2作目は完成させ、結局ヒットになるが、その後、バッドボーイと袂を分かつことになった。

兄の非業の死を知ってアルバムを見ると、兄の墓石に手をかけるカールの写真が胸を打つ。アルバムは彼へのトリビュートになっており、各曲を見ていくと、その亡き兄を思う作品がいくつも収録されている。インタールードの「アイ・ミス・ユー」など、まさに兄へのメッセージだ。アルバムの内容はなかなかいい。

さて、その担当者Sさんが実は1980年代に僕がアドリブという雑誌で連載していた「プリンス物語」を熱心に読んでいて、それでプリンスとか、ジャム&ルイスとか、ミネアポリスもの、ひいては当時のブラック・コンテンポラリー系のレコードにのめりこんだ、という話になった。あれを読まれていた方、けっこういるんですねえ。ツナさん。(笑) カール・トーマスの最新作にもジャム&ルイスのてがけた曲が入っている。

で、ミネアポリス雑談などをしているとSさんの携帯にメールが入った。みるみるうちに表情が激変。「カール・トーマス、来日中止のメールが転送されてきました・・・」 おおおっ。じゃあ、この打ち合わせは、水泡に帰す? (笑) 

ところで、カール・トーマスの日本盤発売レーベルは先ほどから書いているが「フォーミュラ・レコーディングス」という。カールの歴史を紐解くと、彼はバッドボーイと契約する前に、エピックレコード所属のグループに参加していたという。そのグループの名前が、なんと「フォーミュラ」というものだった。偶然! 

■カール・トーマス 最新作『ソー・マッチ・ベター』

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『エモーショナル』
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やっぱり、「アイ・ウィッシュ」は傑作。

ENT>MUSIC>ARTIST>Thomas, Carl