#「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」ストーリー~「グレイト・ソング・ストーリー」(名曲物語)

【”Betcha By Golly, Wow” Story 】

(不定期でその曲の誕生秘話などをご紹介している「グレイト・ソング・ストーリー」(名曲物語)。今回は、スタイリスティックスでおなじみのフィリー・ソウル・クラシック「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」をご紹介します。この模様は、今日の「ソウル・サーチン」[インターFM76.1mhzで日曜午後2時半~]でもご紹介します)

ACT 1: 入魂の1曲

流行語。

「フィラデルフィア・ソウル」「フィリー・ソウル」の人気グループ、スタイリスティックスの大ヒット曲のひとつ「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」。1972年に大ヒットした名曲。スタイリスティックスのデビュー・アルバム『スタイリスティックス登場』に収録されている。

これを書いているのが、そのプロデューサー、トム・ベルと作詞家リンダ・クリードのコンビだ。スタイリスティックスで大ヒットし、その後、カヴァーが生まれた。有名なのは、フィリス・ハイマン、そして、プリンス、アーロン・ネヴィルなど。そのほかにもジャズの分野も含めて多数のカヴァーがある。

ところが、スタイリスティックスがレコーディングして有名にしたこの曲、実は、スタイリスティックより前に、録音されていたことを最近知った。なんと、1960年代に活躍した女優兼歌手のコニー・スティーヴンスが、1970年にレコーディングしていたのだ。しかし、そのときのタイトルは、「キープ・グロウイング・ストロングKeep Growing Strong」。そう、サビの繰り返しの部分だ。いくら「ベッチャ・バイ~」で検索してもでてこない。

コニー・スティーヴンスは1938年8月8日生まれ(現在73歳)で、1959年から始まったテレビ・シリーズ『ハワイアン・アイ』で人気となった。ほぼ同じ頃からシンガーとしての活動も開始。女優兼歌手として活躍していた。1959年4月からエディー・バーンズとのデュエットで「クーキー・クーキー」という曲が全米ポップチャートで4位、ゴールド・ディスクに輝いている。ただこれは、聴くとわかるが、歌というより、ラップというかナレーションというか、ちょっと冗談ぽいノヴェルティー・ソングだ。アイドル・タレントというところといえそう。

(一応参考までに、その楽曲映像↓)
http://youtu.be/3gDT2Xk5-Oo

さて、コニーの「キープ・グロウイング・ストロング」が録音されたのは、1970年。これも、プロデュース、コンダクト、アレンジがトム・ベル本人。シングルは、ベル・レコードからリリース。どのような経緯で当時はまだ無名だったトム・ベルがコニーの曲をプロデュースすることになったかはわからない。ひょっとすると、デルフォニックスの作品を出していたフィリー・グルーヴ・レコードを配給していたのが、ベル・レコードだったから、その線でトム・ベルに話が行ったのかもしれない。とりあえず、シングルを1枚作ろうということで出来たようだ。

サウンド的には、初期のデルフォニックスのサウンドに近い。ちょっと荒削りな音だが、ちゃんとストリングスも入っているところが、トム・ベルらしい。残念ながらこのヴァージョン「Keep Growing Strong / Tick-Tock」(Bell 922)はヒットしなかった。今では、このオリジナルのシングル盤にはオークションで300ドル以上ついたりするという。ちなみに、シングルB面の「ティック・トック」は、ミディアム調のフィリー風ダンス曲。これは、2011年5月29日(日)に山下達郎さんの『サンデイ・ソングブック』(東京FM系列全国ネット)で、オンエアされた。たぶん日本で唯一のオンエアだ。達郎さんはこのシングルをその頃入手したそうだ。シングルは1970年の9月から10月頃のリリースと思われる。(ちなみに、Bellのディスコグラフィーをあたると、Bell 910 パートリッジ・ファミリーの「I Think I Love You」が1970年10月、Bell 913 フィフス・ディメンションの「On The Beach」が1970年8月、Bell 938 ドーンの「ノックは3回(Knock Three Times)」が1970年11月のリリースで、若干の前後することもあるが、922はその間あたりのリリースと見られる)

■コニー・スティーヴンスの「キープ・グロウイング・ストロング」
Connie Stevens : Keep Growing Strong
http://youtu.be/uTokIbPQyB0


(動画ではありませんが、曲は聴けます)

(ちなみにこの曲は、今では下記掲載のコンピレーションで安価に入手できる。今日「ソウル・ブレンズ~ソウル・サーチン」でかけるのもこのCDから。また、訳詞が下にあります)

ACT 2: タイトルを変えて再録音

マジック。

ヒットはしなかったが、しかし、トム・ベルもリンダ・クリードもこの曲が気に入っていた。入魂の1曲だった。そして、これをほぼ同じ頃、ちょうどトム・ベルがプロデュースを頼まれたフィラデルフィア出身の無名の新人グループのデビュー・アルバムで再度録音する。おそらく1970年暮れか1971年初頭にかけてのことだ。

しかし、彼らはタイトルを「キープ・グロウイング・ストロング」からそのサビがくる少し前のフレーズに変更した。そう、「ベッチャバイ・ゴーリー・ワウ」という当時の流行り言葉にしたのだ。そしてそれをアルバムに入れた。新人グループはスタイリスティックスといった。このヴァージョンは、コニーのポップな感じとはまったく違い、まるで女性が歌っているかのようなソフトなファルセット(裏声)で歌われ、流麗なオーケストラのサウンドで出来ていた。

「Betcha / By Golly / Wow」は当時ブラックの間で流行っていた言い回しで、あえて今風の日本語にすると「驚いたなあ、マジ・すげえなあ」「ぶっとんだぜ~」と言った驚きを表現する言葉だった。Betcha はYou bet(その通り、マジに、もちろん、絶対!), by golly は by godで、これも「本当に! まったくその通り! おや、まあ」といった意味、そしてWowも驚きの感嘆詞。全部同じような単語が並ぶ。「ほんと、マジ、驚く、ワオ」とか、「びっくりしたなあ、モウ」とか、あるいは、少し意訳すれば、「がちょ~~ん」なんかもあるかもしれない。いわば旬の単語をそのままタイトルにしたのがこれだ。21世紀の今では誰も使わない言葉だという70年代初期の黒人間の「流行語」だった。

ここは推測だが、元々トム・ベルたちは、「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」のタイトルで曲を作ったが、これが黒人スラングで、白人のコニーにはそぐわないということで、わかりやすく「キープ・グロウイング・ストロング」にしたのかもしれない。そして、黒人のスタイリスティックスで録音するときに、黒人たちにはわかりやすい元のタイトルに戻した可能性もある。

もちろん、「キープ・グロウイング・ストロング」(愛はどんどんと強くなっていく)というタイトルのほうが一般的にはなじみやすいのだが、あえて当時の流行語で、タイトルとしては意外な「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」を全面に押し出したところがよかったのだろう。

この曲はスタイリスティックスのデビュー作『スタイリスティックス』に収められ、「ユー・アー・エヴリシング」に続いて同アルバムからは4枚目のシングルとしてカット。瞬く間にラジオ局でのエア・プレイを得る。1972年3月からヒットし始め、ソウル・チャートで2位、ポップ・チャートで3位を記録する大ヒットになる。下記の歌詞・訳詞をみていただくとよくわかるが、リンダ・クリードが生み出した不思議なラヴ・ソングの世界がとても魅力的だ。それが、スタイリスティックスのリード・シンガー、ラッセル・トンプキンスの声とからみあい、独自のスタイリスティックス・ワールドを作り出した。まさに、マジックが生まれたと言っていいだろう。

■スタイリスティックス:ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ

http://youtu.be/MUKilZ58wYY


(動画ではありませんが、曲は聴けます)

トム・ベルは、自分の自信作となると、何度でも録音を試みる。この「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」も、コニーで録音し、再度スタイリスティックスで録音。またトムは1973年、やはりヴェテラン・シンガー、ジョニー・マティスをプロデュースするが、ここでは「ライフ・イズ・ア・ソング・ワース・シンギン」と「ベイビー・ビー・マイン」を録音している。

前者はそれから4年後の1977年、ご存知テディー・ペンダーグラスが録音し、アルバム・タイトル曲にしてヒット。後者は17年後の1990年、ジェームス・イングラムがアルバムで録音、シングル・カットされている。いい曲は、タイミングとアレンジなどで、最初ヒットしなくても、のちにヒットすることがあるといういい例だ。

ACT 3: 多数のカヴァーが生まれスタンダードに

下積み。

「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」のカヴァーで特筆すべき出来のものは、やはりフィラデルフィア出身のフィリス・ハイマンのものと、プリンスのものがある。フィリスは、彼女がノーマン・コナーズのゲスト・シンガーとしてレコーディングしたものが話題となった。そのほかに、グラント・グリーン、タック・アンドレス、スモーキー・ロビンソン、アーロン・ネヴィルなど多くがカヴァー。

プリンスのものは、1996年の3枚組アルバム『エマンシペーション』に収録されている。(正確にはこの時点ではアーティスト表記は、プリンスではなく、発音不能のシンボル・マークの時代) ここには、「ベッチャ・・・」のほかにフィリー・ソウル・クラシック「ラ・ラ・ミーンズ・アイ・ラヴ・ユー」も収録されているが、「ベッチャ・・・」は、シングルとして当時のプリンスの妻、マイテの23回目の誕生日(1996年11月12日)にリリースされ、マイテが登場するプロモーション・ビデオも制作された。

プリンスの瞳の中にカメラが入っていくところから始まるが、これは歌詞の冒頭にあわせたもの。ここではマイテがプリンスに妊娠したことを報告するというストーリーになっており、実生活そのままになっている。妊娠を知り、ますます君への愛が強くなった、といった意味で、プリンスの気持ちとこの作品が完全に一体化している。ちなみに、彼らは1996年4月ごろ妊娠を知るが、残念なことにそのベイビーは誕生後1週間でパイフェル症候群のため死去している。

Betcha By Golly Wow by Prince
http://youtu.be/lnAQkc0GuK0


日本のテレビで放映されたPV。

「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」は、スタイリスティックスで大ヒットし、その後多数のカヴァーが生まれ、40年以上を経て、文字通りスタンダードになった。おそらく、プリンスのようにこの曲を自身の人生のサウンドトラックとした人も多くいたに違いない。そういう意味で、ウエディング・ソングとして、ラヴ・ソングとしても、秀逸の1曲だ。きっとこれからもまだまだカヴァーされるだろう。

トム・ベルたちが、コニーでヒットしなかったところであきらめて、スタイリスティックスで再度録音しなければ、この曲は誰も知ることなく終わっていた。彼らがこの曲に執着し再度録音したからこそ、スタンダードになった。

歴史とは現在に至るたった一本の道筋を描くものだ。しかし、その道の途中には、いくつもの分岐点がある。過去、別の道を行ったらどうなったか、ということは誰にもわからない。だが今日ある姿は、今まで来た道が、結局はそれしかなかった、あるいは正解だった、あるいは必然のように思える道だったとしかいいようがない。そして、ソングライターは本当にいい作品なら、一度ヒットしなかったからと言って自らが生み出した子供のような楽曲を諦めることはない。楽曲にも「下積み」の時代があるものなのだ。コニーの「キープ・グロウイング・ストロング」は、そんな「下積み」時代の名曲だ。その下積みの楽曲は、時を経てどんどんと強くなっていった(keep growing strong)のである。

■今日の「ソウル・ブレンズ」(日曜午後1時~3時、インターFM76.1mhz)内「ソウル・サーチン」(午後2時半~)で、この「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」ストーリーを紹介して、コニー・スティーヴンス・ヴァージョンをかけます。関東地区の方は、ネットを通じてラジコで聴けます。

http://radiko.jp/player/player.html#INT

■過去の名曲物語(訳詞つき)

http://ameblo.jp/soulsearchin/theme-10017696659.html
このジャンルにまとめておいてあります。

Rapper’s Delight : Sugarhill Gang (これは訳詞はありません…)
Time After Time: Cindy Lauper
He Ain’t Heavy, He’s My Brother : Hollies
Smoke Gets In Your Eyes :Platters

New York State Of Mind: Billy Joel
http://www.soulsearchin.com/entertainment/music/song/diary20040322-1.html
Golden Lady: Stevie Woner
http://www.soulsearchin.com/entertainment/music/song/diary20040318-1.html
Dance With My Father : Luther Vandross
http://www.soulsearchin.com/entertainment/music/song/diary20040211.html

+++++

『ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワオ』(訳詞)
(トム・ベル作曲、リンダ・クリード作詞)
スタイリスティックスでヒット

君の瞳には恋の火花が散っている
君が微笑むたびに、甘くとろけるようなキャンディーの街が現れる
そんな御伽噺が現実になるなんて夢にも思わなかった
でも、君の傍らにいると、本当に御伽噺の主人公みたいな感じなんだ
君は変装した精霊(ジーニー)だね
謎と驚きにあふれてる

なんてすごいことなんだ、ワオ
君こそ、僕がずっと探し求めていた女(ひと)
君への愛はどんどん大きくなっていく
どんどん大きくなっていく

もし僕が流れ星を捕まえられるなら、
その星で君を照らそう
そうすれば、君の居所がわかるから
虹を君の好きな形にオーダーしよう
大空に君の名前を書いて
君への思いと愛を見せよう
君がして欲しいと思うことは何でもやってみよう

だって、君の存在は、本当にすごいことなんだから、ワオ
君こそ、僕がずっと探し求めていた女(ひと)
君への愛はどんどん大きくなっていく
どんどん大きくなっていく

本当にすごいことだよ、ワオ
君こそ、僕がずっと探し求めていた女(ひと)
君への愛はどんどん大きくなっていく
どんどん大きくなっていく

君はずっと僕が探し続けてきた女(ひと)
君への愛を永遠に

(訳詞・ザ・ソウル・サーチャー)

++++

Betcha By Golly, Wow
(written by Thom Bell, Linda Creed)

There’s a spark of magic in your eyes
Candyland appears each time you smile
Never thought that fairy tales came true
But they come true when I’m near you
You’re a genie in disguise
Full of wonder and surprise

And betcha by golly, wow
You’re the one that I’ve been waiting for forever
And ever will my love for you keep growin’ strong
Keep growin’ strong

If I could I’d catch a falling star
To shine on you so I’ll know where you are
Order rainbows in your favorite shade
To show I love you, thinking of you
Write your name across the sky
Anything you ask I’ll try, `cause

Betcha by golly, wow
You’re the one that I’ve been waiting for forever
And ever will my love for you keep growin’ strong
Keep growin’ strong

Betcha by golly, wow
You’re the one that I’ve been waiting for forever
And ever will my love for you keep growin’ strong
Keep growin’ strong

Betcha by golly, wow
You’re the one that I’ve been waiting for forever
And ever will my love for you

■スタイリスティックス 名盤 『スタイリスティックス登場』(紙ジャケ)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0018OFGO2/soulsearchiho-22/ref=nosim/

■ コニー・スティーヴンス・ヴァージョンが入っているコンピ。(これ、けっこうおもしろい選曲で楽しめます)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000GDIC3S/soulsearchiho-22/ref=nosim/"

■フィリス・ハイマン・ヴァージョン

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005EHP6/soulsearchiho-22/ref=nosim/

■プリンス・ヴァージョン

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000002UJC/soulsearchiho-22/ref=nosim/

■アーロン・ネヴィル 『グランド・トゥアー』

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000002G1A/soulsearchiho-22/ref=nosim/

GREAT SONG STORY>Betcha By Golly Wow, Keep Growing Strong